読書日記PNU屋

読書の記録

恒川光太郎「草祭」

草祭草祭
恒川 光太郎

新潮社 2008-11
asin:4103130415

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 美奥と呼ばれる土地で起きる、不思議な出来事とは…怪奇幻想連作集。
 謎は謎のままに淡々と進むので、物足りなさを感じる。こういう淡い作風もありだと思うが、私からするとアッサリしすぎている感じ。そこは好みだろうか。
 美奥の始まりを描く「くさのゆめがたり」が印象に残った。
 朱川湊人とか、森見登美彦のような幻想小説が好みならオススメ。

江花優子「君は誰に殺されたのですか―パロマ湯沸器事件の真実」

君は誰に殺されたのですか―パロマ湯沸器事件の真実君は誰に殺されたのですか
江花 優子

新潮社 2008-11
asin:4103131810

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 まだ若い青年は、湯沸器によって生命を絶たれた。遺族である両親が、警察を動かし企業に生命を重視するよう訴えかける経過を綴ったノンフィクション。
 安全・安心なはずの湯沸かし器が、いきなり殺人マシーンとなる…そんな衝撃的な実話である。2ケタの生命が同様の事故で失われたとは恐ろしいことである。障害を負い、いまだ苦しむ被害者もある。
 企業側は不正改造だとの姿勢を崩していないようだが、いろいろなことを考えさせられる本だった。警察の初動捜査の躓きも大きかったようだ。
 とくに本書からは、健康で元気そのものだったはずの息子を突然このせいで失った両親の嘆き、怒りと悲しみが切々と伝わってくる。
 ただ、この本の著者は感情的な部分の描写は非常に巧い(言葉自体は飾り泣く朴訥であるが、それゆえに荒々しい迫力がある)ものの、ノンフィクションとしては事実関係が少しわかりにくかったようにも思える。著者はすでに知っているが、読者はまだ知らないこと(死亡推定日のやりとりなど)の、前後関係が私にはややわかりにくかった。まだ二作目とのことなので、今後に期待だろうか。  

桐野夏生「女神記」

女神記  新・世界の神話女神記 新・世界の神話
桐野 夏生

角川グループパブリッシング 2008-11-29
asin:4048738968

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 16で死んだ巫女が死の世界で出会った女神はイザナミだった。
 めがみき、ではなく「じょしんき」。事前情報を何も見ぬまま読み始めたので、現代ものではなく古事記の世界そのものであることに驚いた。
 小説単体で見れば、悲しくも魅力的な女神像が打ち出されており、見所も多々ある。だが、伝説や古典を題材にとった物語では山岸凉子の漫画に迫力においてかなわない、とも感じる。
 神話そのものを騙る部分は、作中の語り部が語っている設定なんだが、冗長で工夫がない。ここは退屈した。イザナギが出て来てからは、盛り返したけれど。ラスト、もうひとひねりほしかったかなあ…。
p.s.カバー画、加山又造かなあと思ったらやっぱりそうなんだね。この陰毛の描き方見て、そうじゃないかと思った。昔、画集を買ったことがあったもんだから。
 そのものズバリ山岸凉子月読―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)でもよかったんじゃないかなあ、カバー画。
p.s.その2 「新・世界の神話」って銘打っているってことは、こんな感じで世界の神話や悲劇の伝説を小説にしていくの? 別に悪いとは言わないけれど、著者にはもっと「メタボラ」で派遣労働者の悲劇を描いたみたいに、【いま】の現実を小説化してほしいのだがなあ。

桜庭一樹「ファミリーポートレイト」

ファミリーポートレイトファミリーポートレイト
桜庭 一樹

講談社 2008-11-21
asin:4062151324

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 虐待するかと思うと過剰な愛を注ぎ、娘に依存する母親・マコ。娘のコマコは母に呪縛されながら、母を求めて生きるが。
 大きく幼女編・少女編・成人してから編の三つのパートに分けられると思う。
 幼女バージョンはエロスとタナトスと幻視たっぷりで、濃厚に桐野夏生岩井志麻子(I'm sorry,mamaとか邪悪な花鳥風月とか)っぽいけれど、それなりに面白かった。
 成人編も創作せねば生きられぬ業が書かれていて、著者の近況を思わせるところもあり興味深かった。
 しかし、ただ流されて性交しまくるだけの少女編は失敗であると思う。ていうか、ない方がよい。ここはヒロインが愛する人と別れ、やぶれかぶれになったことを表しているのかもしれんが全くリアリティがない。それとも、こういうだらしのないのが最近のリアルなのかな?レイプとイジメが氾濫する、携帯小説のように。
 ああ、「えくすたしー」には腹が立った。「私の男」でも腹が立ったが、なんというか、私は感性がこの作家と合わないのかもしれない。あまり腹が立ったので、やや内容に触れる。本書を未読の人はこの先読まない方がいいと言っておく。

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夢枕獏「東天の獅子」3

東天の獅子〈第3巻〉天の巻・嘉納流柔術東天の獅子〈第3巻〉天の巻・嘉納流柔術
夢枕 獏

双葉社 2008-11
asin:457523642X

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 ついに講道館対他流柔道の試合が始まった。講道館の徒を狙う新たな男が現れ…。
 3巻だが、収束に向かわずいまだ話が広がり続けているのがすごい。柔道の試合描写も、選手たちの汗や息遣いまで感じられるほどに生々しい迫力がある。
 武道家の生き方を面白いストーリーとして表現することに成功した、優れた格闘小説だ。木多康昭喧嘩商売」のマジメな部分や、山口貴由シグルイ」みたいなムードが好きならマジおすすめ。

やりたては痛かったけど、慣れた

 指折れた。 詳しくはメインブログで書いたけれど、指の骨折れた。
★発端→ http://pnupnu.jugem.cc/?eid=838
★治療→ http://pnupnu.jugem.cc/?eid=839
 やりたてはけっこう痛かったけど、もう慣れた。
  つうか、骨折だから痛いけれどもこれなら偏頭痛の脈打つ痛みの方が強いし、たとえるならSEIRIの二日目の腹痛が指に来てるくらいの感じだし。こんぐらいなら、痛み止め抜きで耐えられるな。
 なのに、土曜の夜行った救急でも、月曜の整形外科でも痛み止めが処方されそうになって断った。なんでみんな私に痛み止めを処方しようとするんだ!!
 よく、小説なんかだと拷問で指を折ったりするが、あれって効果あんのかな。まー痛いっちゃ痛いんだけど、痛みそのものよりも、ふだんと逆に曲がった関節のビジュアル、その見た目のキモチワルイ効果の方が大きい気がする。
 でも私は神経までイった虫歯の痛みでもガマンできる人間なんで、ここに書いたことはあまり汎用性がないかもしれない。
 安静にしてれば耐えられるけど、やはりぶつけると痛いよ? 昔、「今日から俺は!」ってギャグマンガで、折れてギプスはめた指に不良がふざけてチョップするシーンがあったけど、あれはないわ。その話をしたらツレがまねして私の折れた指にチョップしようとするんだが、万一当たったら各所に悪行晒したる(お風呂の温度をめっちゃヌルくしたとか!!)。

和田はつ子「パラノイア」

パラノイア (角川ホラー文庫)パラノイア
和田 はつ子

角川書店 2004-01
asin:4043407106

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 教師たちは、なぜ惨殺されねばならなかったのか?女刑事・水野は食文化研究者の日下部と共に推理する。
 日下部シリーズはオカルトありとなしの場合があり、本書はなしの方である。
 シリーズ前作を読んだのはもう何年も前だが、精悍な水野のことは忘れていても、おっとりした性格に卓越した推理力を持つアイヌ混血の日下部のことは覚えていたから、印象の強いキャラなのだろう。
 ただ、今読むと北海道新聞連載という縛りゆえか、血なまぐさい猟奇殺人部分と、美味しそうな料理の部分がミスマッチにも感じられる。かつて生きていたものをバラす点で両者は似ていると言えなくもないが。
 そして、やはり一研究者である日下部が、いかな水野に連れられてとはいえ、殺人現場にノコノコついて行くのは不自然ではないか。水野のやり方(容疑者の妹への行動)も乱暴に思える。
 また、丁寧に積み上げてきた謎を解明する時、あまりに急ぎ足なような気がする。説明口調は仕方ないにしても、ラストに余韻があまりないのは残念。
p.s.いきなり古い本を読んでいるのは、積読の消化ね。