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読書の記録

フィリップ・シャルリエ「死体が語る歴史」

死体が語る歴史―古病理学が明かす世界死体が語る歴史
吉田 春美

河出書房新社 2008-09
asin:4309224911

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Philippe Charlier/Medecin des moris
副題「古病理学が明かす世界」
 聖遺物や歴史上の人物の遺体を病理学的に鑑定し、本人確認をしたり死因を調べたりするノンフィクション。
 この本、鉛の棺の中で人体が腐敗すると、酸で溶けた鉛が死体に付着しミイラ化するだとか、ミイラはよい画材になるとか、医学部卒の私ですら初耳のことが多くて興味深い。だが、なにしろしょっぱながフランス国王の愛人アニェスなもんだから歴史に疎い自分は挫折しそうになった。デカルトとか、ジャンヌ・ダルクの章から始まっていればとっつきがよいのに。
 聖遺物って、火葬の国にはないよねー。日本でも、古い時代ならミイラがあるけど。ただ、本書はフランス人医師が主に自国の聖遺物について語っているため、私のような国外のことに疎い読者にはわかんないこともいっぱいある。例えば、フランスの王族は死ぬと必ず心臓を取り出して祀るらしいのだ。なぜに?!ブルボン王朝の掟なのであろうか。また、死体の頭を蹴り飛ばして遊ぶことも、珍しくなかったみたいなんだわ。カルチャーショック。
 真物かどうかもわからない聖遺物を鑑定するとき、中を見るために覆いの破れ目からファイバースコープで観察するのも驚き。覆いをひっぺがすわけにはいかんのねえ。
 論文から引用された箇所もあるくらいお堅い書物なんだけど、著者の人柄からか時折ユーモアも見られて面白い。ただ、遺物の写真が一切ないのは不満。想像力にも限界があるから、図版が欲しかったよ。