田中啓文「辛い飴」
辛い飴 田中 啓文 東京創元社 2008-08 asin:4488025307 Amazonで詳しく見る |
ジャズを愛する人々による、素敵な謎と粋な解決が見所の永見緋太郎シリーズ第二弾。
シリーズ前作「落下する緑」に比べるとミステリー色は薄らいだが、たいへん面白い小説であることは間違いない。御手洗潔はご隠居状態だし、火村先生にも法月綸太郎にも失恋(というより、失望)してきた私にとって、永見緋太郎は最後の(ワクワク感の拠り所としての)砦である。この飄々とした男の言動なにもかもが、現実の些末な気遣いにくたびれ果てた私の心にカタルシスをもたらさずにおかないのだ。
縛られることなどに無縁に思える永見だが、本作で彼の音楽上の悩みも明かされさらにいとおしくなる。彼を輝かせるキャラが語り手の唐島で、彼のまっとうな凡庸さなしには永見がここまで非凡に煌めくことはなかったであろう。このコンビの再登場に期待したい。
また、章の区切りごとに著者のオススメ名盤レビューも収録されており、ジャズのみならず音楽を愛する人なら本書に溢れる音楽愛に感じるところがあるのではないか。ただ、私は単なる永見ファンであり、ジャズも野球も楽器のもろもろも知らないことは付け加えておく。