綾辻行人「深泥丘奇談」
深泥丘奇談 綾辻行人 メディアファクトリー2008-02 asin:4840121745 Amazonで詳しく見る |
作家が体験する奇怪な出来事の数々を描く幻想連作集。
私が雑誌「幽」で最初の短編「顔」を読んだときには、正直ピンと来なかった。イメージだけを弄んだように感じたせいである。ところがこうして一冊の本にまとまってから改めて読むと、一編一編に仕込まれた不協和音と思っていたものが、実は見事なオーケストラだったというような印象だ。
誰もが知っているはずのローカルルールがなぜか自分だけにはわからない、しかも体調の不良も相まって自分の記憶にすら自信がない…そんな怪奇幻想小説にうってつけの主人公なのだから、面白くならないはずがないのだ。
本書の恐怖は書きすぎぬところにあると思う。描写された出来事は、読者の脳髄の奥底に沈殿した、異様な異形を浮かびあがらせる触媒だ。この異様な雰囲気…意味ありげに情報が小出しにされるが、真相は明らかにならず妖しくもじれったいムードはなかなか好みなので、続きも楽しみにしたい。
p.s.モノトーンのような暗い作品の色調とはうらはらに、カラフルでキュートな装丁・挿画がミスマッチで素敵。