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読書の記録

成島香里「医者は自分の病気を治せるか」

医者は自分の病気を治せるか―お医者さん15人の闘病記医者は自分の病気を治せるか
成島 香里

ポプラ社 2000-10
asin:4591065960

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 副題「お医者さん15人の闘病記」。著者が生死に関わる重病を患った医師にインタビューしていくノンフィクション。

 今、事情があって一般向け医学系書物をリサーチしているので読んでみた。
 著者が50人以上の医師から話を聞いた中から、15人の体験談を紹介している。たいてい50〜70代の、地位の高い医師が登場する。
 医師とて人間だから、老いも病も避けることはできない。本書は、医療者側が患者になって初めて知ったさまざまな発見に満ちており、貴重な一冊と言えるだろう。人は誰でも一生に一冊ぶんはドラマを持っている、とは巷でよく聞く言葉だが、本書は健康自慢の壮年医師たちの闘病体験談であり、エキサイティングにならないはずがない。
 著者は徹底して患者側の視点で物事を見ているが、多忙かつ病を持つ医師に、さらなる理想の医師像の高みを望むのは、時に酷とも思えるほど。
 本書は、闘病記の傍ら、医師の日常業務の殺人的忙しさをも浮き彫りにする書となっている。ただひとつ異論があるとすれば、病を得たから名医になるのではなく、名医が病を得ればさらに名医になるということだろうか。悲しいことだが愚医が病になったとしても、そこから患者診療にまで想いをめぐらすことはそう多くはない。自らの体験を患者へフィードバックできる能力こそが、名医の証と言えるだろう。健康な医師でも頭脳と観察力と想像力と思いやりによって、いくらでも名医となれる可能性があるということだ。