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読書の記録

熊田紺也「死体とご遺体」

死体とご遺体 夫婦湯灌師と4000体の出会い (平凡社新書)死体とご遺体
熊田 紺也

平凡社 2006-04-11
asin:4582853196

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副題「夫婦湯灌師と4000体との出会い」
 夫婦で湯灌専門の会社を営んでいる著者が語る、湯灌の実際と半生のノンフィクション。

 「おばあちゃん、湯灌をしてもらってうれしそうだったよね」そんな葬儀社のCMを見て以来、湯灌が気になっていた。友人が少ない上、実家とは絶縁状態、婚家でも微妙な立ち位置にある私は、ちゃんとした葬儀に参列したことが一度もない。それゆえに、本書から知れる日本の葬儀事情は興味深いものだった。
 私個人は、土葬ならともかくすぐ火葬してしまう日本では病院等のエンゼルケアで充分ではないのか、湯灌の意義はどこにあるのかと思っていたが、宗教的歴史や遺族と故人とのふれあいとお別れの場になるとは盲点だった。
 著者はなかなかすごい経歴の方で、バブル崩壊後、会社倒産で背負った借金を返すため一念発起湯灌会社を興されたのである。そのバイタリティと高いプロ意識には脱帽。
また、パートナーの夫人の気持ちも収録されていて、ともに働く夫婦の記録となっている。
 遺体のいろいろについても書かれているが、故人の事情をもらさない節度ある書き方がまさに葬儀業界のプロと感じた。
 業種ゆえに受ける偏見や、それを凌駕するやりがいが書かれているが、本書は後継者難で結ばれるのが寂寥感を醸し出す。もしも現職を失うことがあれば、葬儀社方面の就職も考えてみようかなと思った。