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読書の記録

石持浅海「温かな手」

温かな手温かな手
石持 浅海

東京創元社 2007-12
asin:4488024335

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 人間に擬態して生きる謎の種族は名探偵だった!七編を収録する推理連作集。

 ほんのりクールなミステリー。スーパーナチュラルな設定が使われているけれど、それが事件や推理に大きく影響することはない。ただ、(最終話を除いて)事件がどれもそれ単体では地味なものが多く華がないので、人外の魅力的なキャラクターを持ってくることで彩りになったのかな、と感じた。
 ただ、個人的感情から納得できない部分もある。
 まずひとつ、第一話…冒頭の事件だが、肝となった「きれいな×ー×」というのがまず、腐っても元・理系な自分には信じられないのだ。×ー×改×だが、程度問題ではあるものの、都合の良い×ー×を選り抜くなんてことはありふれた行為という認識がある。それで×人まで起こるものであろうか。なんとなく動機に違和感を感じた。
 もうひとつは、作中で繰り返し{違う種なのだから、恋愛感情など起こらない}と書かれているのに疑問を感じる。彼らの側はどうか知らないが、人間側はそう簡単に割り切れるものだろうか。
 ましてや、人間そっくり、人間以上の知性と好ましい姿態の持ち主なのである。アヤマチが起きない方がおかしいと私は考える。
 血を吸わないから吸血鬼ではないと否定してはいるが、彼らのしていることは生物からのエナジー吸引であり、その有り様はまごうことなく古典的なヴァンパイアである。萩尾望都ポーの一族」を私みたいなロートルは濃厚に連想する。古来、ヴァンパイアと人間の異種族間恋愛は小説のメインテーマであり続けた。
 ここでもうひとつ違和感がある。生物学者であるヒロインが、希少な人間以外の知的高等生物と遭遇、同居までしておきながら、彼らの生態や組織になんら興味を抱かないことだ。これも作中では{暗黙のマナーだから}と説明されているが、人間の…それも生物学者がこれほどの知的好奇心にあらがえるものだろうか。
 そこで私は仮説を立てた。彼らはエナジードレインの際、対象の人間に鎮静効果もしくは脳内麻薬物質分泌を促し多幸感をもたらすなどして、詮索するだけの気力を奪っているのでは?恋愛対象とならないこともこれで説明できるかもしれない。脳内物質を操作して、欲望を自分に抱かないよう人間を制御すればよいのだ。言わば精神的去勢だ。ウン、これはいけそうだ。ならば、いい年の女性が全く彼氏を欲しがらないことや、人間そっくりの乳をチラ見せされても、健康な性的活動期にある成人男性がさっぱり欲情しないことに説明がつくぞ。真相はいかに。