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読書の記録

津原泰水「ルピナス探偵団の憂愁」

ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)ルピナス探偵団の憂愁
津原 泰水

東京創元社 2007-12
asin:4488012256

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 親友の急逝に集った元ルピナス学園の仲間たちは、親友の遺志を解きあかそうと推理する。本格ミステリ連作集。

 しみる一冊だった。
 ルピナスシリーズは既読だったが本書を手に取る頃にはすっかり内容を忘れていて、おさらいせずに読んでもよいのか不安だったが、直観がズバリ当たってしまうヒロインと強烈なその姉で思い出せた。ん、でも私けっこう欲望に忠実な不二子って好きよ。
 過去へさかのぼっていく構成が効いていて、ラストによって冒頭で感じた仲間への想いがさらに印象的に胸に残る造り。巧い青春ミステリーである。
 キャラクター一人ひとりが非常に個性的かつ魅力的なので、ぜひまた新作であいみまえたいと思う。


 ちなみにシリーズ前作の感想はこれ(旧サイトより転載)。

ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫 M つ 4-1)
ルピナス探偵団の当惑 」★★★★
 ミッション系のルピナス学園に通う彩子は怖いものが嫌いなのに、たぐいまれな推理能力を持っている。それゆえ、刑事である姉の不二子の捜査に巻き込まれてしまうのだった。
 ジュブナイルとして発表されて以来、十年近く埋もれてきた物語が加筆され、新たに発行されたという。確かにケータイなどは出ないけれど、内容は全く古びておらず驚きを感じる。
 犯行現場で犯人がピザを食べたわけを探る「冷えたピザはいかが」、雪の館で死体のそばに残された鏡文字の謎を解く「ようこそ雪の館へ」、病死した女優の手はなぜ死後に切断されたのか「大女優の右手」を収録。
 純な彩子もいいが、お嬢と見せてやり手な摩耶と頭の切れる冷静なキリコ、そして藤子・F・不二雄エスパー魔美」の高畑クンのような物知りの祀島くんがいい味出していて、このカルテットをいつまでも見ていたくなる。もちろん、お調子者であっけらかんとした不二子もアクセントを加えている。
 細かいことを言うと捜査上の秘密をコムスメに教えないだろうとか、鑑識捜査を無視してるじゃんとか気になる点が無いではないが、これだけ読み応えがあれば不問にしたい。
 ミステリとしてトリックが解けたあとも、物語として味わいが残る良品。