川端裕人「エピデミック」
エピデミック 川端 裕人 角川書店 2007-12 asin:4048738011 Amazonで詳しく見る |
海辺の田舎町に突如発生した奇病。当初インフルエンザかと思われたその病は、急激に発症し重症化する。感染源を突きとめるため、ケイトら疫学専門家は調査を始めるが。バイオサスペンス。
丁寧によく調べて作ってある作品と思う。うーん、ただ、地味。そしてヒロインが自分には合わなくて、作中世界に入り込むことはついに最後まで出来なかった。
こっからは個人的な好き嫌いなのでファンはとばしてくれ。
私が気に入らないのはヒロインのケイトだ。彼女のまるで女学生であるかのような恩師への憧れ、シングルマザーとしての仕事と家庭の両立の苦労、子ども一般へ向ける母性愛などなど、見る人が見れば魅力的に感じられるかもしれない。だが、彼女の個人的事情が作品の展開スピードをゆるめ、間延びさせてしまったように思える。
症状の描写もちょっと…まあフィクションならばいいんだろうけど首肯しかねるところがちょっと…。いわゆる〈蛇口〉推理・調査の過程も、なぜアレを重視しないのかラストまで疑問だった。
ただ、西澤保彦「完全無欠の名探偵」のように、事件が起きないことが疫学最大の仕事であるのならば、カタルシスの全くない本書は或る意味リアルと言えるのかもしれない。患者を〈症例〉として見ることで、人格として診ることができない医療のジレンマも盛り込んであるし、意欲作なのではないか。私は面白いと思えなかったけど。
p.s.アウトブレイクノートはジェフリー・ディーヴァーのライムシリーズにおける捜査ノートにムードが似ているね。
p.s.その2 伝染病を扱った映画「アウトブレイク」や「エピデミック」は見ていないからパス。
p.s.その3 エンタメ的伝染病パニックなら篠田節子「夏の災厄」が私は好きだわ。