読書日記PNU屋

読書の記録

小松秀樹「医療崩壊 「立ち去り型サボタージュ」とは何か」

医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
小松 秀樹

朝日新聞社 2006-05
asin:4022501839

Amazonで詳しく見る


 虎の門病院泌尿器科部長である著者が、慈恵医大青戸病院事件を中心に現代日本の医療問題を提示するノンフィクション。

 近頃メディアをにぎわせて(?)いる、立ち去り型サボタージュというのは著者の造語。著者は造語がお好きらしく、いくつか他にもオリジナルの造語が見られる。
 大学病院にて研修中、心身とも燃え尽きて職を辞した自分だが、ひょっとして私は「立ち去り型サボタージュ」なのか?と思い読んでみた。読後思うにどっちかといえば「逃散」だな自分は、という認識に至ったが。
 正直、読みにくい本であった。自分のようにふだん大衆小説しか読んでいないような脳には負担の大きい書物であった。多岐にわたる多大な文献引用などを見ても、ルポルタージュというより学術論文に近い雰囲気の書である。
 著者のデビュー作である書慈恵医大青戸病院事件―医療の構造と実践的倫理についての記述・言及が多出し(宣伝?)、しかもその書の内容が読者にも既知のことであるかのように語られるため、未読だとチンプンカンプンなところも出てくる。こちらも読めということなのであろうか。
 副題でもある「立ち去り型サボタージュ」について具体的な言及が始まるのは半ばをとうに過ぎてからである。まあ、そこまで語られる医療過誤裁判等についても「立ち去り〜」の要因のひとつであるので、方向性としては間違っていないのであるが、そこまでの頁を繰るのに脳細胞を消費した。
 前著への頻繁な言及などは削ってもよいと個人的には思うが、医療現場から、現役医師が医療改革への声をあげ、現状の問題点を列記し改善点を示してみせた功績は大きいだろう。
 
 現場発の書ではあるが、「立ち〜」具体例、体験談はほとんど無い。具体的な状況を知りたいのであれば東大のがん治療医が癌になって ああ無情の勤務医生活がよいだろう。