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読書の記録

諸星大二郎「蜘蛛の糸は必ず切れる」

蜘蛛の糸は必ず切れる蜘蛛の糸は必ず切れる
諸星 大二郎

講談社 2007-09-11
asin:4062140608

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 怪奇・伝奇漫画の名手による幻想小説4編を収録する短編集。

 どこか海外モノのような奇妙なテイストの「船を待つ」は、いつ来るかもわからぬ船を待つ人々の物語である。淡々とした雰囲気の中にたっぷりと不安催すことどもが詰め込まれている。

「いないはずの彼女」「同窓会の夜」は主役が女と男のように違えど肝に共通したところのある話ゆえ、一冊に収めると似通った印象を受けてしまう。もちろん展開やオチは違うのだが。私的には陰鬱な後者よりもコミカルな前者の方が好みであった。
 そして、ラストは表題作。蜘蛛の糸、その後である。伝承をベースにしているとはいえ、まるで見てきたかのような臨場感をもって語られる地獄の描写は圧巻。最猛勝など、有名な地獄の虫もわんさと出ながらその名が出ないところが、罪人の視点でリアル。友成純一ばりの地獄の責め苦の残虐さなど見所は多いが、ラストがちょっと残念。凄みある作品だけれども、既成作を超える煌めきは見つからなかったというか。

 自分の個人的感想だが、前作「キョウコのキョウは恐怖の恐」キョウコのキョウは恐怖の恐よりは一冊の中に統一感がないせいか、薄口に感じてしまった。なにしろ漫画界では比べるもののない巨匠であるから、小説にもハイレベルなものをどうしても期待してしまうのだ。
 しかし、漫画よりも量産がきくであろうので(小説の方が漫画より楽、というのではない。単に作成時間や肉体的疲労度において)、著者の不思議な想像の世界を小説でも見せていただけるのはありがたい、と一ファンとして思っている。