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読書の記録

朱川湊人「いっぺんさん」

いっぺんさん (いっぺんさん)いっぺんさん (いっぺんさん)
朱川 湊人

実業之日本社 2007-08-17
asin:4408535060

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 せつなく、悲しく時に恐ろしい怪奇幻想短編集。子供の登場率、やや多め。

 うーん、自分のように怪談ジャンキーとして、怖い話を読みまくった者には感想を書くのが難しい作品集だ。
 表題作は人情しみるすてきな作品だ。こういうの、好きだ。しかし、冒頭のこの作品を読んで、本書が「花まんま」系の、いわゆる“泣ける”ホラーだと思ったら大間違いである。
 確かに「小さなふしぎ」はソレ系の話であるけれども、その他の作品は後味が悪かったりとか、グロテスクだったりとかB級ホラーさながらなのである。語りも巧いし面白い…のだが、今一つ高い評価を与えるのに躊躇してしまうのには、個人的な理由がある。




 まずは、高港基資の怪談漫画とダブるネタが2つあることだ。「コドモノクニ 夏『くらげのおつかい』」の漂着物発見のシチュエーションと行為に対するオチ、そして「山から来るもの」の“もの”と目撃者の縁がそれぞれ「ウミヂ」「ヨビト」と一部かぶるのである。
 勿論私は作者のファンであるから、好意的に妄想すれば、先行する漫画が一応“読者投稿の怪奇体験”と銘打ってあるため、作家と漫画家が同じ体験者をネタ元としているのかもしれない…と想像出来なくもないが、この思い付きはあまりリアルではないだろう。
 そしてラストを飾る「八十八姫」であるが、これも先行する創作物を想起させる。例えれば過程は椎名誠の短編「いそしぎ」で、オチは手塚治虫「グロテスクへの招待」のヒロイン、ネリの最期を思い起こさせる。
 まるきり同じではないし、この作品ならではのスパイスが振り掛けられてはいるけれど、これだけいろいろ類似点を見つけると、どこか釈然とせず素直に楽しめないのであった。
 ジャスパー・フォードのSF「文学刑事サーズデイ・ネクスト」の作中で語られ、ムーンライダーズが歌ったように“もう全ての物語は一度語られている”のかもしれない。