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読書の記録

草薙厚子「僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実」

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実
草薙 厚子

講談社 2007-05-22
asin:4062139170

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 元法務省東京少年鑑別所法務教官の著者が捜査資料を大公開するノンフィクション。

 焼け落ちた少年の自宅と直筆捜査資料がカバー写真という煽情的な装丁の本だけれど、中身は真面目に事件の起きた家庭の歩みを描写していく。なぜ内部資料を入手出来たのかは書かれていないが。
 私はこの事件が起きた時、事件に関する本が出たら読まなければならないと思った。なぜなら私もかつて親の死を願ったことがあるからだ。
 自分語りになるが、私は子供にべったり過干渉の家庭で育ち、親から医者になることを義務づけられていた。教育熱心が過ぎた家庭にはままあることだろうが、母がつきっきりで勉強を見て、間違えると怒鳴られたり物を投げられたりした。本件の少年はもっと苛烈に、しばしば実父から暴力をふるわれていたという。私はプライバシーのない親子関係が息苦しくてならず、親が外出した際には「なにか良くないことが起きて、二人とも戻ってこなければいいのに」と願ったことも一度や二度ではなかった。この事件の少年もそうだった。私は親に危害を加えるバイタリティもなく、自死のことばかり考えていたのであるが。
 彼と私が違うのは、私の両親は巧く私を飼いならし、医者にまでさせたことだ。大学で精神科学を学んだ私は両親の支配に対抗する知恵をつけ、自分と両親の関係性の歪みに気付き、気付かせてくれる知己を得たので親から離脱することが出来た。平和にではなく、家出・夜逃げ・駆け落ちを経てだし今も父から感情的な手紙が来るけれど、親から鎖国独立を守っているつもりだ。
 この事件と自分とは異なる状況もあるが(代々医者の家庭だったり激しいDV、離婚家庭で継母は少年に同情的だったなど)、まるでそうなるかもしれなかった自分を見ているようでやるせない気分に陥った。
 ところで、高校生で親のことをパパママというのは普通なのか?私の親も自称パパママだったので、どこか人間関係の不全さをそこに読み取るのは勘ぐりすぎだろうか。単に少年の家がお金持ちなだけかもしれないが。

p.s.本書には論旨の展開や肩入れする人物が偏っているなど問題点もあるが、愛という名のもとにゆがむ親子関係を知らしめたことは評価できる。そういう家庭出の人間として、そう思う。家庭が密室になるのはよくないことなのだ。


2007.9.14追記
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070914-00000202-yom-soci
やはりこの件、調書ろうえい問題として事件となったようである。仁義は守らないとな…。