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読書の記録

パトリック・マグラア「失われた探検家」

Patrick McGrath/The Lost Explorer

失われた探険家失われた探険家
パトリック・マグラア 宮脇 孝雄

河出書房新社 2007-05
asin:4309621988

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 河出奇想コレクションの一冊。
「天使」腐臭と香水を同時にまとう、優雅にして不潔な老人からきく信じがたい物語。グロさ加減がいい塩梅。
表題作は、自宅の庭で探検家を見つけた少女の物語である。なぜ庭?なぜ探検家?疑問符が盛大に頭を飛びかう中、唐突に物語は終わる。この突き放し方、くせになりそう。
「黒い手の呪い」インド滞在中の恋人に会いに行った女性が見た恐ろしいものとは。生理的嫌悪感あおる話。こういう微妙な読後感はあまり好きじゃないなあ。インドがひどく誤解されているような気がしないでもない。
「酔いどれの夢」画家の奇妙な日常。食肉処理場の存在が陰影を与えている。非常に、いわゆる文学っぽい作品で、異様な迫力はあるが愉しみ処を見つけるのに苦労した。
「アンブローズ・サイム」カトリック信仰に忍び込んだ誘惑。無宗教の自分には感想が難しい話。白黒両極端じゃなくって、中間があった方が幸せなんじゃないのかな。
「アーノルド・クロンベックの話」死刑囚にインタビューする女性。これは素敵に怖い!レスラー博士の体験談なんかにありそうである。
「血の病」貧血の者たちの集い。ああおそろしや。こんな展開、あり?
「串の一突き」精神分析医の影におびえる老人。ミステリーでは定番の手法なれど、鮮やかなラスト。
「マーミリオン」廃墟に写真家は幻視する。ラストが理解不能であった。
オナニストの手」女を襲う手首は誰のもの?ばかばかしくなりそうな設定を真面目に語りきってしまうところがイカス。
「長靴の物語」核戦争後、シェルターに逃れた一家の家長に履かれた長靴は、世にも恐ろしいものを見る。語り手がモノであるところは奇抜に感じるが、語られるのはグロテスクにしてオーソドックスな悲劇である。因果応報の物語とも言える。しかしこの一家、履き物以下だな。
「蠱惑の聖餐」蝿が語る魅惑の世界。言葉遊びで作られたような話だということが、訳者による解説でわかる。英語も奥深い。
「血と水」狂気が招いた残酷な事件。おどろおどろしく、どこか歪んで美しくもあるがオチはいずこ?楽しみ方の難しい作品。
「監視」大学講師を執拗にストーキングする学生。独善的な論理が見所なのかな?サインのシーンはジョン・レノン殺害犯を彷彿とさせる。
「吸血鬼クリーヴ あるいはゴシック風味の田園曲」要するに、お母さんは心配症って感じか。意味不明な事象が次々起こり、解説されぬまま読者にゆだねられていくのでしんどくなってきた。
「悪臭」オチはわかりやすいがこれも意味不明。
「もう一人の精神科医精神科医の見解の相違。著者の父親や親族がその業界の人であるせいか、精神科譚多し。しかも楽しみどころがわからない。
「オマリーとシュウォーツ」訳者解説にもあるとおり設定から展開までギリシャ神話の某悲劇そのまんま現代に置換してみたお話。これも理解不能
「ミセス・ヴォーン」なんじゃ、こりゃ?と思って訳者解説を見たら、長編の一部であるらしい。習作ならば載せる必要ないのでは。

 以上読んできて、前半のミステリーちっくな作品はなかなか楽しかったものの、後半のサイコ不条理小説は旨味が全くわからなかった。ただ憂鬱な世界が延々続く上に意味不明なのだから。それともなにか、読書の達人でもないと理解出来ないのだろうか?
 訳者解説にもある通り、不条理・腐敗・サイコ・精神病院が出過ぎで飽きる。後半の収録作は、かけらも好みではなかった。