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読書の記録

桐野夏生「メタボラ」

メタボラメタボラ
桐野 夏生

朝日新聞社 2007-05
asin:4022502797

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 夜の山奥をさ迷っていた青年は、そこでひとりの男と出会った。二人は奇妙な縁で結ばれるが…。

 新聞に連載されていた小説だが、多分に文学の香りがするね。こんなはずではなかったと底辺であえぐ若者と、今が楽しければそれでいい若者の章が小出しに綴られていく、著者お得意の手法である。
 謎を帯びた男の事情が明らかになる過程もゾクゾクさせるし、お気楽な男の宮古弁丸出しの会話も楽しい。そんな魅力的なポイントが多くありつつも、唐突に訪れたラストには首をかしげてしまった。
 無一文の若者二人が出会い、周囲の善意を利用して成り上がってゆく前半はとてもスリリングであった。だが、一方が選んだ職業が、もう既に様々な小説(新堂冬樹中村うさぎetc.)で描かれているものだったために、そこに新味はなかった(宮古弁くらいか?)。
 その点ではトラウマを背負った家庭崩壊の彼の方がドラマを持っているのだが、宿泊所をめぐるゴタゴタがこれまた辟易するもので…私的感想を言わせてもらえば、出だしのワクワクとドキドキを超えるものはついにラストまで見出せなかったのである。
 学歴なき人のアルバイトが足元見られこすからい条件下での仕事であるなど、場面場面の描写は生々しく異様な迫力があったために、通してのストーリーにそこまでの魅力を感じられなかったことが残念だった。


p.s.新聞で読んでいたダンナとちょっと話をしたのだが、この打ち切りのような終わり方は詰め込みすぎたんではないか、と。ワーキング・プア、家庭崩壊、×モ××シュ×ル、ホスト、沖縄、××喪失、ネット××…収拾がつかなかったのかもしれないし、人生というのはこの物語のように、死・以外のはっきりしたエンドマークがないものなのかもしれない。