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読書の記録

金原ひとみ「ハイドラ」

ハイドラハイドラ
金原 ひとみ

新潮社 2007-04
asin:4103045310

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 モデルの早希は写真家と付き合っているが、二人の関係はどこか歪んだものだった。そんな早希は明るい男の子と出会うが。

 ああ、金原ひとみがこんな普通な小説を描くなんて!「Amebic」「オートフィクション」あたりの流れが好きだった自分には、ちょっと残念。いや、ヒロイン早希は自虐が過ぎるし恋人である写真家も冷淡な人間だし、充分異様ではあるのだが、それでも読み終えての正直な感想は[なんかフツー]である。
 感触としては、デビュー作の「蛇にピアス」に近いだろうか。諦念を伴う、でも揺れる女心を描いた恋愛小説という点では。だが、本作からは「蛇〜」から感じられたような、暗黒の放射だとか自棄の迫力だとかは感じられなかった。

 別に淡白な小説が悪いというつもりはない。けれども金原作品の魅力は激情の容赦なきシャワーと凄まじい妄念にあったと思うのだ。そのどちらもが薄らいでいるように感じられ、私好みではなかった。
 私は金原ひとみに何を求めて読んでいるのだろうか?それは「蛇にピアス蛇にピアスの闇に沈むことを選ぶ覚悟であり、「アッシュベイビー」アッシュベイビーの唾棄すべき現実に吠え暴れる激情であり、「Amebic」AMEBICの錯文であり、「オートフィクション」オートフィクションのとめどない嫉妬と妄想の暴走であるのだろう。またそういった破壊力ある作品を読みたいものだ。