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読書の記録

島本理生「大きな熊が来る前に、おやすみ。」

大きな熊が来る前に、おやすみ。大きな熊が来る前に、おやすみ。
島本 理生

新潮社 2007-03
asin:4103020318

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 若い女性の視点から、恋心を描く三編を収録する短編集。

 表題作は、不安を抱きながら同棲を続けている恋人たちの物語。
 ヒロインの不安と穏やかな諦念がみずみずしく描かれている。選択は自己責任で。

「クロコダイルの午睡」一人暮らしの異性の部屋に、ごはんを食べに来る男の子。
 うーん、これは私好きではないなあ。途中まではおしゃれな恋人未満の関係という感じだったんだが、こんな結末を迎えるとは。…で、どっちもイヤなヤツだったのだということでよろしいでしょうか(爆)
 ヒロインのアレは洒落にならんので真似はしないでね。

「猫と君のとなり」猫が縁の恋。
 むずがゆくなるほど可愛い恋である。

 読んできて思うのは、どこかトラウマを抱えた若い女性の恋愛がテーマなのかなってこと。表題作の保育士ヒロインは自信のない娘だから例外として、ほか二作の大学生ヒロインは、若い自分の性的価値に誇りを持っているように思える。若いがゆえのまっすぐさ、視野の狭さが最も出ているのは二作目かもしれない。
 しかしおしゃれな小説だ。大学生であっても、現実にはこんなおしゃれな会話を交わしているカップルは、おそらくいないだろう。樋口有介の高校生を主役とした小説林檎の木の道がそうであるように、私は小説の中にしかいないこうした青春真っ盛りの若者たちが好きなのである。だからまた、そんな彼らに出会うため、著者の小説を読もうと思うのだった。