古川日出男「サマーバケーションEP」
サマーバケーションEP 古川 日出男 文藝春秋 2007-03 asin:4163257209 Amazonで詳しく見る |
ちょっぴりフツーの人と違った感覚を持つ「僕」が海を目指し川を旅する夏休み。
「サウンドトラック」や「ベルカ、吠えないのか?」のような、斬新さや世界の拡がりはない。現実の日本・東京を舞台にしたロードノベルで、絲山秋子「逃亡くそたわけ」にも似た雰囲気である。なにしろ驚くのが、海を目指す大した理由がないことだ。強いて言えば、夏休みだから、か。
巧いのが、主人公を特殊な人に設定していること。主人公が彼でなければ、偶然出会った人々が海を目指すことはなかったろう。彼の独特な感覚と語り口が、平凡な風景を非凡なものに見せ、多少の強引さを目立たせない効果を生んでいるようだ。おしゃれな会話も健在。
興趣をそがないために多くは明かせないが、人々との別れと出逢いがあるものになぞらえられるのは感動的。
しかし、気になるのは人々の非現実性だ。主人公にしろ超絶お人好しなウナさんにしろ、都合のよいおじさんにしろ現実で似たような人に出逢うことはまず不可能だろう。舞台こそは実在の場所だが、そういう意味でこれは現代のおとぎ話なのかもしれない。
p.s.「僕」のことを、最初山下清のイメージで読んでいたことは秘密だ。