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読書の記録

恩田陸「朝日のようにさわやかに」

朝日のようにさわやかに朝日のようにさわやかに
恩田 陸

新潮社 2007-03
asin:4103971088

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 五年の間に発表された様々な短編を収録。4編は既読であったがやはり面白いな。文体の読みやすさ、意外な着想と魅力的な人物が読者をひきつけてやまない。
「水晶の夜、翡翠の朝」全寮制の学校で退屈に暮らすヨハンの前に事件が。なんだっけあれ、り…理…理瀬シリーズの外伝だよ!欠点がもしあるとすれば出来すぎなことくらいで、雰囲気が楽しいミステリーだ。
「ご案内」不条理もの。本書は短編集のせいか、不条理モノが多めな気がする。
「あなたと夜と音楽と」深夜ラジオの会話ミステリーなのだが、巧いのが設定で、ラジオであれば説明的な台詞もオーケーなのだ。これもやや出来すぎな感があるけれど、告発シーンの迫力は圧巻である。
「冷凍みかん」このタイトルを見ると2006年に流行ったGTPの歌を思い出すが、ここで描かれているのはひんやりと恐ろしい存在である。しかし、なぜみかん。その不条理性が恐怖を増している。
「赤い毬」これも悪夢のごとく不条理。赤、青、緑のイメージが美しい。「深夜の食卓」これもまた、悪夢そのもののような物語。ディティールが気持ち悪くてすごい。
「いいわけ」言わずもがななはずのモデルがわからない私はアホだろうか。
「一千一秒殺人事件」オマージュの元になる作家を未読なのでなんとも言い難いが、不条理風味が微笑ましい。
「おはなしのつづき」父が子に語るおとぎ話。ひたすら悲しい。
「邂逅について」少女の成長をリアルに描いた作品。作中の絵は実在したそうで、出来ることなら見てみたく思った。
「淋しいお城」児童を主役とした悪夢的世界。せなけいこの絵本世界にも通じる絶望と、淡々とした恐怖がある。
「楽園を追われて」急逝した元同級生の小説を読む友人たち。今は亡き人の人柄があぶり出されていくさまに巧。
「卒業」シュールなスプラッタ・ホラー。まるきり悪夢だが、こんな設定の長編も是非読みたいと思わせる。
「朝日のようにさわやかに」虚実の境目が巧みに融合された、文学よりの作品。うんちくが楽しい。