佐伯一麦「石の肺 アスベスト禍を追う」
石の肺 アスベスト禍を追う 佐伯 一麦 新潮社 2007-02-22 asin:4103814047 Amazonで詳しく見る |
自らもアスベスト被害に苦しむ純文学作家が綴るノンフィクション。
この作家さんは初めて読んだが、ノンフィクションということもあってか朴訥にして真摯な作風であると感じた。
さて、アスベストである。理科の実験で金網についていた、あのグレーの物質…学校などにも使われていて、マスコミを騒がせた物質、私はそんなイメージしか持っていなかった。肺がんや悪性中皮腫の原因であるアスベスト。だがそれは、吹き付けなど施工に携わる建築業界のみの病であり、問題であると思い込んでいた。いや、自分の無知から思い込み、行政にそう思い込まされてきたと言っても過言ではないだろう。
健康被害を知らぬままにアスベストの曝露を受け続け、石綿肺に苦しむ著者の半生記も読ませるが、私のようなのんきな小市民を真に戦慄させしめたのは、第九章である。アスベスト会社に勤務していた人が打ち明ける、国の隠蔽体質と身近に氾濫しているアスベストの現実。家の天井に、居酒屋に、学校に車に、いつも乗るエレベーターに…体内に一度入れば代謝されず毒性を発揮し続ける不滅の物質が、こんなにもありふれて我々を包囲していたなんて。現実の方が、どんなホラー映画よりもホラーじゃないか。まず小さな一歩として、国民のひとりひとりがアスベストの害を広く知るべきであると思う。思えば何年も毎日利用してきた駅ビルのその駐車場は、天井および柱一面にアスベストが吹き付けられており、二年ほど前に除去工事をしていたのだった。駐車場利用時に、私もアスベストを吸ってしまっていただろう。 自らの身を守るためにも、広く世に読まれてほしい一冊だ。