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読書の記録

福田ますみ「でっちあげ」

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相
福田 ますみ

新潮社 2007-01-17
asin:4103036710

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 福岡のとある熱心な教師が、でっちあげにより教職を追われる悲劇のノンフィクション。彼はアメリカ国籍の祖父を持つ教え子に、血が交じっているから穢れているた言い、自殺の強要までしたという。

 「殺人教師」とまでマスコミに盛大に騒がれたこの事件、実はでっちあげだったのだ。スクープは大々的に報道されるが、訂正とお詫びはする意味がわからぬほど地味でひっそりとしている。新聞をとっていない私はテレビのニュースだったか、福岡差別教師の事件を見てひどいと感じた。しかし傍観者の常として、次々に起こる残虐事件に目を奪われ、いつしか事件のことを忘れていた。
 本書ではマスコミの裏付けに乏しいままの過熱報道ぶりや、学校管理者側の異常なまでの保護者偏重を明らかにしてみせている。日本はこんなに軽佻浮薄な国であるのかと、絶望すらしたくなる。報道側は多局に先んじてスクープをものにしたいあまり、調査不十分のまま、自称・被害者の証言だけをソースとして事件を大きなものとしたのだ。
 私は当事者ではないから、本書の情報から判断するにすぎないが、今の日本は子供に甘すぎるのではないだろうか。小子化のおり、子供が大事なのは、わかる。だが、子供を大切にするのと甘やかしてスポイルするのは絶対に違う。
 裁判で自称・被害者側に五百人の大弁護団がついたエピソードも、子供への常軌を逸した対応ぶりの象徴と言えよう。実にヒステリックだ。そこにあるのは理性なき感情のみである。子供は純真で正直だから嘘なんかつくはずはないと、無批判に完全受容した結果が、この笑えない滑稽喜劇を生んだである。ちょっと考えれば、わかることである。我々が子供の頃は、天使のように純粋で、嘘など一つもつかなかっただろうか。否、言い訳もしたし、おとなより荒唐無稽な嘘をついていたはずである。
 日本の感情的な、ヒステリックマザー的社会が、このような無実の個人叩きをゆるしているのだろう。体罰を受けたと言いながら、医師によるケガの診断書もないまま裁判に踏み切るなど、噴飯ものとしか言い様がない。