読書日記PNU屋

読書の記録

古屋×乙一×兎丸「少年少女漂流記」

少年少女漂流記少年少女漂流記
古屋 兎丸 乙一

集英社 2007-02
asin:4087748545

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 原作・乙一、漫画・古屋×兎丸の豪華コラボでおくる夢と恥と幻想の連作集。
残念ながら私は伊集院ラジオを聞いたことがないので、「中二病」の詳細はわからないのだが、自我意識が肥大し傷つきやすい多感な若人のハート、それが持続することを指すのであろうか。

 さて、ページを開けば冒険が始まる。否、冒険という積極的なニュアンスではなしに、少年少女は日々日常という名の普通と闘い続けるのだ。漂流に太平洋も、冒険にジャングルも必要ない。日常こそが命を奪われる可能性すらある危険地帯なのだから。
「沈没記」満員電車で苦悩する少女は、気付くと…。私はこれ、あまり好みではないかも。よくある展開に思えて…。水の描写はたいへんリアルで美しい。
「アリのせかい」アリ好きな少年がたどりついた、自分だけの真実。うーむ、これも合わなかった。好みの問題ね。なんて暗いのだろうね。アリの巣の描写は素晴らしい。
「魔女っ子サキちゃん・前編・後編」サキちゃんは魔法が使えるという。これはいい話なのだが、あざとさがちらついて好きになれない。だがこれを好む人もいるであろうことは否定しない。
「学校の中枢」なぜ人は勉強しなくてはならないのか?悩み始めた少年だが。主役自体は甘ったれていていやなんだが、彼の視る幻視の世界はすさまじかった。
「お菓子帝国・前編・後編」ダイエット少女のシュール戦記。可愛いのにスプラッタな作画が秀逸。
モンスターエンジン」夜空を飛ぶもの。本書の中で唯一、雑誌掲載時にリアルタイムで読んでいた作品。ありがちな展開であるが甘酸っぱい憧れと、ほろ苦い別離が描かれていて美しい。
「タイト様を見つけたら」母を嫌う少女。タイトルの[タイト]は雲×3&龍×3というすごい漢字だが、カタカナで代用させていただく。これはツボであった。私自身が母との葛藤を持っているからだろうか。しかしこんな名字に生まれたら名前書くのが大変だな。
「竜巻の飼育の巻・前編・後編」みんなとずれてる善良だがイタイ委員長がキレるとき。ネコ型ロボットこそ出て来ないが、まんま今風にした「ドラえもん」のような話。
「ホームルーム」異常な状況下で開かれる、夢のホームルーム。全ての話をつなげるのは無理やり感がなくもないが、大団円はそれなりに感動的。
 巻末特別対談では、合作の創作背景が語られていて興味深い。
 すてきな作品集だと思うのに、なぜかのれなかったのは私が若人に興味がないから。私事だが、大人の気も知らないで甘えくさる若者に苦労をかけられる生活をしているので、彼らの苦悩など浅いものとしか感じられないのだ。真にしんどいのは、老いさらばえて死に逝くだけの、オトナですことよ。
オビの惹句にあるように、「思春期から抜け出せていないすべての人に贈る」ってことは、私は明らかに読者対象外なのであろう。ガクッ。