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読書の記録

川端裕人「星と半月の海」

星と半月の海星と半月の海
川端 裕人

講談社 2006-12-01
asin:4062137348

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 生物とかかわる人々の情熱を描いた短編集。

「みっともないけど本物のペンギン」動物園に勤める[ぼく]はペンギン特別展の準備をするうち、ありえない写真に気付く。動物愛あふれる作品。一枚の写真からたぐり出される衝撃の秘話がいとをかし。ああ!きゅーん、という声を私も聞いてみたかった。私的、本書のベスト作品。
 
 ここからは、やや私の好みからすると、幻想的に過ぎた。幻視とかではなくて、最初の短編のように現実よりだったらもっと好みだったのだけど。
「星と半月の海」魔法の手を持つと噂される獣医は、病気のジンベエザメを救うために努力する。哺乳類としての女性性を、卵胎性であるジンベエザメに重ね合わせ、さらに広大な海に抱かれる命にもたとえてみせる生命讃歌だ。
ティラノサウルスの名前」博物館の展示で多忙な学者のもとに届いた不審なメール。なぜブロントザウルスがアパトサウルスになったのかと思ってたら、そういう理由だったのねー。小学生のころは恐竜少女だったのに最近はめっきり疎くなっていたので、勉強になりましたわ。
世界樹の上から」短編の登場人物が交錯する小編。
「パンダが街にやってくる」パンダの飼育係の苦悩。動物園がかかえる永遠のジレンマだね。イメージは美しいけれど、そこから突き抜ける何かがなくて残念だった(抽象的でゴメン)。
「墓の中に生きている」動物解剖学者が旅する島の不思議。どうもこのヒト、実在人物の遠藤秀紀氏っぽいなあと連想したら著者「あとがき」にお名前が!やはり第一人者なのですね。