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読書の記録

津原泰水「ピカルディの薔薇」

ピカルディの薔薇ピカルディの薔薇
津原 泰水

集英社 2006-11
asin:4087748316

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 作家・猿渡が出会った妖しく美しく、物悲しい事件を描く小説集。

 文章の力を感じる一冊である。流麗な文体にのせられて、いつしかとんでもないところへたどり着く、そんな読書の醍醐味がここにある。シリーズものだが本書からいきなり読んでしまった。
「夕化粧」もう、庭のある家には住めない…作家の手紙とは。可愛らしいイメージのはずの白粉花がおぞましく思えてくる魔性含んだ小説。オカルトを生み出すのはいつも人の心。
「ピカルディの薔薇」繊細な人形作家と小説家が出会ったとき、悲劇の種はまかれた。グロテスクと美に酔い、弱肉強食の現代社会から滅びゆくしかない弱者を悲しむ小説と感じた。
「籠中花」リゾートとやどかりの意外な関係。ペットとして小動物を惨死させたことのある身にはせつないオープニング。ぎゃあああ、ポメが、ポメがあ〜!!い、痛すぎる…。
「フルーツ白玉」タイトルから想像もつかない食材がわんさか…と思ったら、予期せぬオチが。
「夢三十夜」病と奇怪な夢の物語。ああ、すべてが夢のようだ。《平太郎》と言えば稲生と連想するが、「稲生モノノケ大全」に寄せられた作品だとか。道理で!
「甘い風」伝説のウクレレに秘められた物語。甘さの理由が鳥肌モノ。
「新京異聞」異国での不思議な体験。余韻残す、ラストにふさわしい話であった。