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読書の記録

泡坂妻夫「揚羽蝶」

揚羽蝶揚羽蝶
泡坂 妻夫

徳間書店 2006-11
asin:4198622515

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 紋章上絵師にまつわる「揚羽蝶」「雪月梅花」「紋の華苑」「鳥居と兎」、マジシャンにまつわる「精神感応術」「おじいちゃんのシンブル」「小さなサーカス」、戦時中のせつない思い出「コロスケの貯金箱」を収録する短編集。

 紋といいマジックといい、著者の経歴が存分に生かされた作品集と言えるだろう。
家紋と紋章師にまつわるあれこれを描いた前半がとくに好みであった。もともと付き合った彼に家紋が何か尋ねてみたり、趣味で家紋図録を見るくらいの図案好きなので。着物に家紋というのは知っていたが、お墓にも掘られているのは気付かなかった。今度墓参することがあったら、注意してみよう。
 現実寄りだった家紋物語に比べ、マジシャン話はスーパーナチュラル要素が入ってくる。私は現実寄りな方が好みだけれど、ここは好きずきだろう。
 ラストの戦争疎開譚もそうなのだが、読んだ後ほっこりと人情のぬくもりを感じるのに、どこか寂しげな余韻を残す物語が多かった。ミステリの大家として知られる著者だが、本書は推理小説ではない。だが生き急ぎすぎる現代からは失われつつある、職人の技や誇りに出会えたことは収穫だった。

p.s.会話の流れるような調子など抜群に上手いと感じた。