柄刀一「時を巡る肖像 絵画修復士御倉瞬介の推理」
時を巡る肖像 柄刀 一 実業之日本社 2006-11-16 asin:440853501X Amazonで詳しく見る |
亡妻の思い出を胸に秘め、絵画修復を生業とする男が出会った数々の事件。
六編の短編を収録しているのだが、芸術に身を捧げた人々の執念が背筋寒からしめる「ピカソの空白」はともかく、他の作品には戸惑うところが多かった(この作品も、動機は問題にならないなどミステリとしては型破りな印象なのだ)。
最も違和感を覚えたのは「遺影、『デルフトの眺望』」。後味の悪さ、救いのなさをけなしたいのではない。登場人物の心情についていけないのだ。短編ゆえページ制限があったのかもしれないが、筋運びが大急ぎに過ぎると感じる。読者に最初から提示すらされていない事実が唐突に明かされても、いい意味でのサプライズとは思いづらい。美術と犯罪の関係性も強引で苦し気だ。
芸術ミステリならば芸術そのものと深く関わる魅力的な謎を提示し、そこに味わい深い人間ドラマを加えて魅せる北森鴻の旗師・陶子シリーズや、本書に同じく修復士を主人公とした「深淵のガランス」などの傑作があり、それらと比べると本書は薄味で物足りなく思えてしまうのだった。
p.s.装丁が「似て蝶」