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読書の記録

大森望・豊崎由美「文学賞メッタ斬り!リターンズ」

文学賞メッタ斬り!リターンズ文学賞メッタ斬り!リターンズ
大森 望 豊崎 由美

パルコ 2006-08
asin:4891947411

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 トヨザキ氏のザキはほんとは「崎」じゃなくてムツカシイ方の字なんだが、携帯では特殊文字の出し方がわからんので簡易版の字で代用させていただく。

 さて前置きが長くなったが、本書は「文学賞メッタ斬り!」の続編である。賞の権威とはなんぞやと、今までの受賞作を読んで首をかしげていた向きには溜飲の下がる一冊かもしれない。

 実は私、前作が大嫌いで、その理由はトヨザキ氏がある漫画家の作品を「同人レベル」とのたまわったことにある。同人誌も今では進歩していて、たいへんにレベルが高く商業誌掲載作と遜色ないものもあるから一概にその言葉が蔑称ということにはならないかもしれない。だが、日本に現存する漫画家で十指に入ろうとする描き手に対してそれはないだろうと、あなたは小説文学に関しては権威であろうが漫画に対してどれだけの知識がおありなのかと、私は反感に燃えたのだった。そんな私怨を抑えて読めば、本シリーズのような賞の内幕を明かす趣向は必要なものだろうと思う。

 単なる快楽的小説消費者である私は自分の実体験から賞など興業だ、賞だからと読んでも面白いとは限らんと思って読書ライフを送っているけれど、世には賞ならいいものにちがいないと信ずる素直な人もあるので、そういう方々には本書は福音となるかもしれぬ。
 ただ、大森・トヨザキが新たな権威として君臨するのはいかがなものかとも思う。現に、書評サイトをあれこれ巡っていると『トヨザキ社長のオススメなのにピンとこなかった、きっと私が悪いのだ』みたいな記述をちらほら目にする。それは違うのじゃないかと思う。違う人間なのだから好みも違って当たり前ではないか。確かにトヨザキ社長は凡百の読書家では及ばぬ地平に在る人だが、権威失墜した賞の代わりに彼女を新たな権威に据えたのでは意味がない。指標とすれども盲従するなかれとだけ言っておきたい。