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読書の記録

沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」

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八年前に破れた恋を引きずる十和子は、年上の男と同棲中。だが、彼女は彼を軽蔑していた…。
「九月が永遠に続けば」九月が永遠に続けばでホラーサスペンス大賞を受賞した著者の二作目。前作は犯罪被害者である女性の描写がリアリティを失うくらいセンセーショナルで好みではなかったのだが、文章のまとう暗い空気に惹かれたのだった。

さて本作、ヒロインはいやな女である。同棲している男に経済的に依存しながら、その男への愛はなく、ひたすら自分の優位性を確認するためだけに彼をいたぶるのである。その暴力ぶりはすさまじく、フツーの男ならばとっくにヒロインを棄てているだろう。そう、ガキっぽい小者と思われた彼も、フツーではないのだ。そこに気付いてしまったヒロインが、自分の依存症や攻撃性といった異常をたなに上げて、怯え始めるザマといったらない。それだけに、ラストの衝撃ひとしおである。

表層だけでは人間の闇はわからない。そんなじっとりとした恐怖に溢れる本書は、語り手であるヒロインの不安定なメンタルに影響されて不気味な揺らぎと不安を読者に味わわせる、良質なサイコサスペンスと言えるのではなかろうか。