島田荘司「最後の一球」
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御手洗と石岡のもとに相談に訪れた青年。そこからリンクしていく途方もない物語は、まさに島荘節とでも呼びたくなる、ダイナミックな味わいだった。
最初はタイトルやカバー画からバリバリの球界ミステリかと思い、野球に興味ない私が読みこなせるか不安に感じたのだけれど、読み始めれば杞憂だった。多少最近の作品が薄味だったり強引な面があろうとも、やはりこのお方は凡百の小説家の及ばぬレヴェルのページターナーなのである。
読み終えて、これは御手洗シリーズでなくとも成立する話だな、と思ったけれど、最初の奇妙なテイスト、そしてラストの爽快さはやはり御手洗の存在あってこそなのかもしれない。
内容は地味に感じられるかもしれないが、私は好きだ。最後の一球に込められた想いと力に打たれる。
現代の少し冷酷な歪んだ社会で、第一線に出るわけではないが努力を惜しまず真面目に懸命に生きる人々、そんな人々を暖かな眼差しで見つめ、エールをおくる小説であると思った。