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読書の記録

町田康「真実真正日記」

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作家の僕が書く真正真実の日記という但し書きで本書は始まる。
私のようなシンプルな脳髄の読者は、ああ、じゃあこれ本当の日記というか、ノンフィクション・エッセイなんだ!などと思い込みかけるだろうが、隣人が異様な感じだったりとか、路傍で人が殴殺されたりしているんで幾らなんでもこりゃ現実じゃねいよな、と我にかえった。ふう、危なく実話と信じ込むところだった…。
まあ、現実でも本書に描かれているような不条理や惨劇が日常的に誰かの身に起こっているのだけれど。
そんなわけで、フィクション、いわゆるウソ日記系読み物として軽薄に楽しむことも出来るのだが、一見大げさに描かれたことごとが、現実世界のどうにもならぬダメさ加減を鋭く映し出しているので、そこに戦慄してみるのもいい。
作中作「悦楽のムラート」が実にハチャハチャで楽しいのだが、まさかそんな仕掛けだとは気付けなかった。最初から最後まで手玉に取られ、だまされまくってしまった(いい意味で)。不覚。

p.s.表紙カバーの神秘的なお人形はブライスなのだそうである。そういえばこのでっかいお目目はそうだな。単なるイメージ画像に過ぎないと思っていた写真だけれど、読み終えてみれば内容を色濃く暗示していて、意味深。

p.s.その2.小口が黒いと手につくので往生しますた!