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読書の記録

恒川光太郎「雷の季節の終わりに」

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下界から隔絶された、地図にない町・穩。そこには雷の季節があり、人が消えることもあった…。
「夜市」夜市で鮮烈デビューを飾った著者の2作目、今回は長編。ううむ、これも面白いな。すごい才能が出てきたものである。
隠れ里のように普通の世界と分かたれながらもつながっている異界〈穩〉、そこに住まう特権意識を持った人々、憑きものにして超自然的存在の〈風わいわい〉…それら魅力的な設定が、幻想小説ファンを魅了してやまない。
とくに際立つのはダークサイドの頂点に立つトバムネキの存在で、一度読んだら忘れられないほどいい性格をしていて痺れる。私が怪人にワクワクするのは平井和正の「狼男だよ―アダルト・ウルフガイシリーズ〈1〉」シリーズ以来のことで、嬉しくも不快至極な(注:褒め言葉です!)出逢いであった。
ホラーらしく暴力的でショッキングなシーンもあるけれど、風わいわいとムネキに逢うだけでも充分に価値ある作品だと思う。
ラストはやや印象が弱く、この素晴らしい小説の締めくくりとしては不満も残るが、そこまでのスリリングな道行きを存分に楽しんだ。

p.s.信じがたいことに、これがまだ2作目である。短編は朱川湊人と似た印象があったけれど、不可思議で凶々しいイメージの表現は先を行っているかも。
次回作が心底楽しみな作家である。