小路幸也「東京公園」
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家族写真を撮るのが趣味の圭司は人妻の写真を撮ってくれ、
とその夫から頼まれる。恋未満の好意に満ちた爽やかな小説。
[なぜ夫は妻の尾行を依頼したのか?]とか
[なぜ妻は晴れた日に公園に通い続けるのか?]などと思えば
日常の謎系ミステリーとしても読めるが、ジャンルがどうというより
人情や思いやりを味わうべき小説だろう。
恋を飛び越えて強い好意は祈りにも似た愛となる。
それは男女間の揺れやすい愛よりも家族間の愛に近い、
見返りなど求めぬ愛なのだ。ラストの爽快さといったら!
晴れた日のあたたかな日差しまで感じられそうである。
血縁のない他人が思いやりを持てば世界はこんなに素敵になる、
そんなあたたかい小説だ。
ここからは全くの蛇足になるが、私が気になったことを2、3。
設定に必要なことだし、圭司の世にも稀なほどの善人オーラで
許されてはいるが、やたら他人を撮るのはマナー違反だよね。
肖像権あるし。
小説の主人公たるもの品行方正四角四面の石部金吉たれ、とまで
言うつもりはないがバイト先で酒をご馳走になったあと
カブに乗っちゃダメだろ。いや、押しながら走って帰ったのかな?
あとは好みの問題だが喫煙者が多くやたらタバコをふかすシーンがあり
アンチ・たばこな自分にはちょっと合わなかったかも。