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読書の記録

ジェフリー・ディーヴァー「12番目のカード/THE Twelfth Card」

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真面目な黒人女学生・ジェニーヴァが図書館で男に襲われた。
彼女は機転でピンチを切り抜けるが、冷酷な男はさらに彼女を追う。
彼女を守りつつ、背景を探るライム&サックスだが。
リンカーン・ライム・シリーズ第6弾。


各所で評価の高いこのシリーズだが、すまぬ私はミステリーとしては
さほど評価していない。
ボーン・コレクターボーン・コレクター〈上〉
はサスペンスフルでライムの傲慢な性格に楽しませてもらったが、
トマス・ハリス羊たちの沈黙羊たちの沈黙の影響を色濃く感じた。
「コフィン・ダンサー」コフィン・ダンサー〈上〉こそはエンタメとして特に難はないが
続く「エンプティー・チェア」エンプティー・チェアには閉口した。まるでテレビの乱造
サスペンスドラマのごとく、理屈より直感が支配し、結果よければ
オールオッケーとでもいうような安易さが感じられた。
「石の猿」石の猿は目先を変えてはいるが、読者に真相を気づかせぬための
苦心の(?)描写がかえって違和感を煽った。
雑誌等の海外ベストミステリーにランクインしながら、
私にはいまいちだったのはシリーズ前作「魔術師」魔術師 (イリュージョニスト)
引っかかった警察はうっかり者ぞろいすぎるし、サプライズを重視する
あまりリアリティが置き去りになる展開は私の嫌いな2作目にも似て、
これで読むのもおしまいにしようかな、としばし悩んだくらいである。


だが、サスペンスやミステリーという枠を超えて、人間・男女としての
ライムとサックスがどうなるのか、それが気になって結局最新作も
読んでしまった。
こんな理由で本シリーズを追っている読者は他にあるだろうか?


猟奇殺人鬼がウヨウヨしているミステリー界において、本作の殺人者
ボイドはそれほど特異な存在とは言えない。彼が何故そうなったかの
ストーリーもわかりやすく社会派的要素すら含んで用意されている。
やりすぎなくらいである。願わくば殺人鬼には表裏くまなくライトを
当てるのではなく、闇という魅力を残しておいてほしい。


ストーリーはアメリ南北戦争奴隷制の歴史をうまく不自然に
ならぬように現代の事件に絡めていて、地味だが好感は持てる。
前作のような、過剰で無理のあるサプライズパレードは好みではないので、
このくらいがいいようにも思うが、あの無理やりなツイストがないと
どこか寂しいのは贅沢というものだろうか。
とりあえず次回も読んでみよう。