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読書の記録

道尾秀介「シャドウ」

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母親の葬儀の日、親友の母親に不気味な幻覚を見た少年。
ほどなくして彼女は投身自殺を遂げた。次々襲う不幸に少年は立ち向かう。
少年が成長の階段を登るサスペンス。


今ミステリー読者界(まあ要するに、私が巡回している
ミステリー系書評サイト)で話題を呼んでいる著者。
本作は今までのこの著者の小説に見られた強引さはなりをひそめ、
いわゆるフツーのミステリーに近い読後感になっている。
それだけ不自然な状況を“自然に”見せ、読者に知らせたくない
情報だけを隠すミステリー的騙しのテクニックが一作ごとに向上
しているのだろう。

デビュー作である「背の眼」背の眼は解かれぬ謎の不条理と設定の非情さ…
デリカシーの無さとも思えるクールぶりについてゆけず、
その続編「骸の爪」オンライン書店ビーケーワン:骸の爪では
端正な仕立ては評価出来るものの動機に釈然としないものが残り、
「向日葵の咲かない夏」向日葵の咲かない夏
はホラーとしてはエンタメたりえるが、ミステリー的に読者を欺く
テクニックに難があって、かなり強引な筋運びが散見された。


本書では前作までの欠点(勿論、読者によっては欠点と映らないかも
しれないが)…動機の不自然さ、生理的嫌悪感を催すサベツぎりぎりの描写、
あからさまな犯人のほのめかしが全て排除されている。
完成度は既刊中一番。
その分大人しくなり、破天荒な魅力は減ったかもしれない。


気になったの或る人の言葉遣い。
その職場ではありえない言い回しを彼が連発しているのは、真相への
伏線効果を狙ったのだろうか?たとえば一例を挙げるとp68の13行目の
ような言い方は絶対しないので、まずそこで真相への手がかりが
つかめてしまう。
その道にいた人物なのだし、完璧な言葉遣いをしていた方が、
ラストのサプライズは大きかったと思う。
悲劇の元凶となった人物の描写には不満が残るものの、
思い切り騙されてみたいならば薦められる作品だろう。