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読書の記録

伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」

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芥川賞受賞作含むニ編を収録。


表題作は自動販売機の商品補充をする主人公が、離婚に至る経過を
同僚に語る物語。


真面目なのにうまくいかない、人生そんなものかもしれないと
思わせてくれる作品。
私から見ると主人公の男もいやな性格だし、
その妻も甘え過ぎにもほどがあると思うのだが…聖人君子など
絵空事な世知辛い現代、こうした男女こそがリアルなのかもしれない。
同僚との恋未満の微妙な距離感がツボなのだろうか?



「貝からみる風景」
スーパーの苦情コーナーを楽しみにする男の身の回り半径2m物語。
素っ気ないタイトルからあまり期待せず読み始めたらこれが面白くて。


表題作の1/4ほどの枚数しかない作品だけれど、
ほのかな狂気だとか、
恋人と共に過ごす至上の幸福とそれを失うことへの不安が
絶妙のブレンドで描かれていて素晴らしい。
正直表題作はしょっぱくて好みではなかったのだが、
この作品を読めただけでも本書を読んで良かったと思う。


もっと彼らのたよりなく微笑ましい暮らしを眺めていたかったが、
この短さでさくっと終わるのが潔くて良いのかもしれない。


p.s.スーパーの苦情掲示板は実は私も興味深くウォッチしている。
あれは面白いよなあ。