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読書の記録

平山夢明「独白するユニバーサル横メルカトル 平山夢明短編集」

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鬼才の才能ほとばしるグロテスク短編集。

「C10H14N2(ニコチン)と少年-乞食と老婆」
孤独なたろうが出会った老人は…。
やるせなく寂しさ感じる作品。難解なテーマを含んでいるような気もする。副題とか。

「Ωの聖餐」
暴力団の手下となった青年が引き合わされた生き物とは。
このおぞましさ、限界不気味なのにどこか残る清涼感、絶望の中に立ち上がるひとかけらの希望…これこそが比類なき持ち味!

「無垢の祈り」
虐待される少女が会いたいひとは…。
せつなく血みどろにロマンチックなお話。怖いのは、この作品のような出来事は現実にも起こっており、そこには奇跡が起きないことだ。

「オペラントの肖像」
たぶん未来、堕術は取り締まられていた。
これを言うとネタバレになってしまうかもしれないが、本書中では優しい者はみなおしなべて酷い目に遭っている。そんなところも、醜い現実のメタファなのだろう。

「卵男」
死刑囚の独房で話す男達。
ミステリー・タッチのサプライズある作品。某有名サスペンスとの表面上の類似に気を取られると、本質を見誤るだろう。

「すまじき熱帯」
仕事で赴いた国は恐るべき地獄のようなところ。
展開の先が読めなさぶりでは本書随一かも。

「独白するユニバーサル横メルカトル」
しゃべる、意志を持つ××。
異形コレクション「魔地図」魔地図で既読だったが再読しても引き込まれた。想っても理解しあえない種族間の隔たりが哀しい。


「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」
MCは拷問師だった。
血生臭さに目を奪われがちだが、ストーリーは王道の涙ものである。「夢」がテーマの競作に掲載されたこともあって、あくまで(作中の)現実に立脚しながら、背景に夢の不気味さが効いている。


万人にお勧めとは言えないけれど、平山小説は合う者に強烈な印象を残す。その異様な奇想天外な設定、残虐描写もさることながら、これら闇色の物語達は、正しき者が不幸になる現実社会の不条理を痛烈なまでに皮肉っているのかもしれない。