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読書の記録

森絵都「風に舞いあがるビニールシート」

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自分なりの大切なもののために生きる人々をリアルに描く短編集。


「器を探して」
ケーキに憑かれた女。
身勝手な天才に振り回されると見えた最初の構図が、徐々に
違うものに見え出すところがなんとも不気味。
夢と希望と依存の奇妙な同居。
周囲はともかく、本人は幸せなんだろうなあ。


「犬の散歩」
ボランティア主婦がお水のバイトをする理由。
突飛な設定ながら真っ直ぐにハッピー。
人の持ちがたい純真さを持つ犬のおかげだろうか。


「守護神」
代筆してくれる謎の学生を探す男。
孤独と友情の物語だ。


「鐘の音」
仏像に人生を変えられた男。
仏像に関心のない自分にはビジュアルが全然浮かんでこない
キビシイ作品だったが、明かされる謎などは北森鴻の美術ミステリーを
彷彿とさせるムードがあった。ラスト一行が粋。


「ジェネレーションX」
若者とクレーム処理に向かうことになった男。
一印象が覆るさまがコミカルで楽しい。


そしてラストは表題作。
UNHCRに勤める女。
…これは感動。人死にがあれば悲しいに決まっているけれど、
悲しみから逃避せずしかと抱きしめて前を向く姿は美しい。


以上読んできてとくに後半の盛り上がりに驚かされた。
この本は2006年度の直木賞受賞作で、それゆえに手に取ったし
選評も本作よりも先に読んでしまったが、
阿刀田高選考委員の評にほぼ同感であった。


本書は最初エキセントリックな女性の半径2m話で始まるが、
主人公の年齢や性別や職業を変えつつ色とりどりの物語で魅せてくれた。


最近の女流文学のように恋愛だけに偏らないところも好印象。
それだけではまとまりがなくなるところを、人生にきちんと向き合い、
熱中できる対象を持っている人々を主人公に選ぶことによって
バラバラに見える物語に一本続きの背骨が通ったと思う。