読書日記PNU屋

読書の記録

金原ひとみ「オートフィクション」


作家のリンはぎりぎりで生きている女性。
編集から自伝的小説を依頼されるリンだが。


すぐキレる人を瞬間湯沸かし器などと言ったりするが、
本書のヒロイン・リンの場合は瞬間妄想器とでも言うのか、
日常の何気ない物事に裏の意味を勘ぐってとてつもない想像を
繰り広げてしまうのである。
しかも彼女には自分の考えが妄想だと薄々わかっているのに、
それを振り払うことは出来ないのだ。地獄のような日々である。


これでもかと自分の潔癖さ、完全主義が自分を追い詰めて行く、
そんなキリキリと痛々しいヒロインの内面が生々しく描かれている。


また本書は恋愛小説としても興味深い。
男女の間の深い溝、女には至極明快な理屈が男には
これっぽっちも理解されないその驚きと絶望が、これでもかと
描かれていくのだ。


リンは多少エキセントリックではあるけれど、
愛しいのに憎らしくてちっとも理解出来ない彼氏という生き物と
付き合ったことのある女性ならば、大なり小なりリンの苦しみを
我がことのように共感出来るのではないだろうか。


(感想つづく)