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読書の記録

山本弘「アイの物語」

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美しいAIアイビスが囚われの青年に語るのは感動的な物語だった。
人間が覇者の座をマシンに明け渡した未来に語られる過去の物語。
「宇宙をぼくの手に」「ときめきの仮想空間」「ミラーガール」
ブラックホール・ダイバー」「正義が正義である世界」「詩音が来た日」
「アイの物語」に加え、プロローグ・インターミッション・エピローグを収録。


いやぁ、畏るべき作品だ。“物語”自体は1997〜2005年に発表されたものに
書き下ろしを加えた構成なのだが、これがメインテーマにぴったりはまって
いるのである。著者には当初から本書の構想がおありだったのだろうか。


一つ一つの挿話はマシンと人間の幸福な関係を描いていて、
すっきり爽やかかつ甘美な余韻を残してくれるのだが、
優しくて良い話だけにインパクトは強くないところがあった。


だが、単なる短編集に終わらずインターミッションで繋ぐことにより、
読者の興味は次へ次へと牽引されていくのだ。巧い。


そして表題作、これが素晴らしかった。ヒトの醜さをえぐりながらも、
かけがえのない美点と希望を歌いあげてみせる、そのラストに感動。


人間の私も、アイに完敗&乾杯。
p.s.AIをテーマとした瀬名秀明デカルトの密室」より希望の持てる内容。