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読書の記録

小川洋子& 樋上公美子 「おとぎ話の忘れ物」

おとぎ話の忘れ物
小川 洋子文 / 樋上 公実子絵
ホーム社 (2006.4)
ISBN:483425125X
価格 : \1,785

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読者が迷い込むのは、静かな私設図書館…
魔性のストーリーと魅惑のイラストレーションが個性の火花散らし
煽り合いひきたてあう、大人のための不思議を詰め込んだ一冊。


[扉]言い伝えでは清純なはずの赤ずきんだが、彼女の上半身は
恥じらいもなくさらけ出され、スカートの裾は大きくまくれあがって
惜しげなく脚線美を見せつけている。
薄明るく開いた扉は、まるで目撃者たるピーピング・トムを誘っているか
のようだ。彼女ははたして誰を待っているのだろうか?


[遠乗り]狼に乗る赤ずきん
彼女の表情はどこかひやりとするほどに冷たい。


[旅]少女の必需品は、大好きなケーキにフルーツにチョコレート。
そしてちょっと背伸びして、コスメボックスにはお化粧品を。


[温かい舌]全裸で狼を従える赤ずきん
真紅のパンティと見えたものは狼の舌だ。しかし彼女の冷徹で凛とした
表情は、淫靡な想像をゆるさない。


[サーカス]テントの前にたたずむ赤ずきん
胸元の大胆にざっくり開いたドレスは少女らしくない色香が漂う。
狼の首がドレスの中に潜り込んでいるのも意味深である。


[繭]血のように赤いずきんを残して素裸な少女を抱き包むのは狼。
彼が彼女を舐めるのは、慈しむゆえか、獲物だからか。


[誘蛾灯]夜の闇に皓々と輝く半裸の赤ずきん
彼女の魅力の前には最早かしづくしかない。


[洞窟]黒いスリップドレスをまとう赤ずきん
快楽の恍惚ゆえか彼女の瞳はうつろ。


[冷たい毛皮]婉然と微笑む赤ずきん
もう彼女は狼にかき抱かれてはいない。むしろ狼の方が彼女に従属
しているようだ。


[サロメ]いにしえの物語のように、皿に乗せたそれを頭上に掲げてみせる赤ずきん
彼女に勝利の喜びはなく、ただ虚しいだけ…。


「ずきん倶楽部」
ずきん倶楽部の会長と知り合った「私」。
会長はどこかアンビバレントで、美しい無数のずきんを収集していながら、
その部屋は狭い。お上品な物腰なのに、紅茶には獣の毛が浮いている。
そんな会長だからこそ、よくしつけてあったペットを平然とエゴイスティックに
利用してのけるのだろう。


[秋]キノコがエロティックだなんて、誰が言い出したんだろう。
こんなにも毒々しくて美しいからか。
茶色で太いのは陽物に似て、白くて細いのは子種にも似て。


[フラミンゴ]曲芸を見せる少女の首にしなだれかかる桃色の鳥。
その首は妖のごとく長い。


[庭]乳房もあらわに寝ころぶ女。
セクシーなガーターで吊ったストッキングは、何か企むような表情とは
ミスマッチな純白。


[春]子豚を抱く女。女の優雅な手つきとはうらはらに、
豚はいまいましげな表情を浮かべている。


[部屋]あっけらかんとスカートをまくりあげる女。
彼女がまだ少女と呼ぶにふさわしい歳であろうことは、リボンが似合う
ことから知れる。下着やソックスも少女らしく白い。


「アリスという名前」
もしア行の名を持つ友人がいたら…少女の空想はとめどない。
変調したと思ったら都市伝説的なラストに。


[アルビノ]色素の薄い人魚姫。美しいのに近寄りがたいのは、
おどろおどろしいお供達のせい?


[産卵]朱赤の人魚が産み落とすのは禍々しい緑の魚卵。
きっと毒があるに違いない。


[深海]蒼きうろこにブロンドが映えて美しすぎる人魚姫。
手前を這うのは海蛇か。


[脱皮]アンデルセンの人魚姫も、このように魔女から足をもらったのだろうか。
貝のモチーフがセクシュアル。


[珊瑚]身を飾り立てた正統派人魚姫。
うろこや尾にまで花やスパンコールのごとき光モノをちりばめて美しい。


「人魚宝石職人の一生」
あの有名な童話が悲しすぎて好きではない私にとってはとても好ましい作品。
溜飲が下がる。男の方にならばもっと良かったけれど。


[蜜月]いかにも育ちの良さそうなお嬢様が白鳥とたたずんでいる
だけなのに、この不穏な空気はどうしたことか。


[卵]前ページで得た予感が当たっていたと想わせる危険な構図。
つんと上を向いた乳首が挑戦的。


[雫]夫婦のように寄り添う女と白鳥。
世界は彼ら二人きりのように静まり返っている。


「愛されすぎた白鳥」白鳥と言えばゼウスとレダかと思ったが、
森の番人の不器用な憧れの物語だった。


あとがきによると絵が先にあったようだが、文と絵が互いに主張しあいつつ
世界をかたち作っていく様に魅せられた。とくに深みある絵が好みであった。