式田ティエン「月が100回沈めば」
アンケートに答えるだけのオイシイアルバイト。
サンプルと呼ばれる回答者達は互いに知り合ってはならない決まりだった。
その禁を破って会話するようになったコースケとアッチだが、
ある日アッチが消えた。コースケは彼を探し始めるが。
衝撃の意欲作にしてデビュー作「沈む さかな」
が穴はあれども光る描写があったため、二作目となる本作を読んでみた。
サスペンスミステリーの外見をとりながら、話の進行はどこかのんびりと
していて、どちらかというと青春カテゴリーに入る小説ではないだろうか。
渋谷の若い子らの日常と、事件とがどうも乖離しているような印象がある。
なんだか事件がぽっかり浮いているのだ。
その印象は真相を解説されても拭えなかった。
ここからは個人的な好みになるが、コースケを始めとする渋谷に集う
若者達の誰一人として、私は好きになれなかった。
石田衣良のIWGPシリーズや垣根涼介のシリーズものも私にはダメだったので、
単にシブヤものと私の相性が悪いだけかもしれないが。
すぐに持論を語りたがる饒舌なオトナ達が、
コースケの何事にもさめた態度が、
個性的であろうとするがゆえにかえって俗物でしかない弓が…とくに彼女の、
今時古臭い翻訳小説でしか見かけないような「〜だわ」「〜のよ」「〜わよ」
を多用したしゃべり言葉には、かなりげんなりさせられた。
弓のエキセントリックさを目立たせているのかもしれないが、
私から見れば弓は、壮大な善行に気をとられるばかり、
身近なコースケの悩みにも気づかない、
そんな真っすぐに傲慢なよくいる夢見がちな少女にしか見えない。
結局事件は刺身のツマであって、メインはコースケとあの人との関係にある
ようなのだが、それにしては想像に委ねられる部分が多くていらちな私は
消化不良に。
とかくコースケのディスコミュニケーションぶりが気になるのだった。