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読書の記録

ウィル・セルフ「元気なぼくらの元気なおもちゃ」

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奇想コレクションの一冊。
私などは不勉強で知らなかったが、著者はイギリスでは有名なジャンキー
にして人気作家なのだそうである。


「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」
ヤクの売人をする兄弟。
こ、これは意味不明。なんですか同じアホならやらなきゃソンという
ことだろか?唐突な設定から展開まで全て、クスリの巻き起こした妄想の
ようでもある。


「虫の園」
没個性の街インワードリーに滞在する男。
コテージにわんさかわんさと虫がわいて出るわけなんだけれど、
虫が大嫌いな私にはおぞけ立つ描写てんこもりで、マゾヒスティックな
愉しさがあった。偏執狂的な主人公は虫がさほど嫌いではないそうだが…
だからこそ、大発生したそれらについてあれこれ妄想するゆとりが
あるのかもしれない。オチは想像出来てしまうね。


「ヨーロッパに捧げる物語」
いきなり赤ちゃんがわけのわからないことをしゃべり出したら…。
面白い設定だとは思うけれど、謎はそのままなのな。
その後こそを知りたいんだけどな。


「やっぱりデイヴ」
なんだか気になるデイヴとは。
説明がたぶん、故意に省かれているためわかりにくく共感をこばむ
内容であると思う。


「愛情と共感」
病んだ臆病な恋人達と、彼らの保護者たるエモート達の物語。
これも説明があまりなくて、いきなり人工的に造られたらしき巨人が
出て来たりして戸惑うが、皮肉の効いた内容で楽しめた。
奇想も面白い。子供と大人の概念が、精神年齢とボディサイズの両面から
ひっくり返されるのがミソ。


「元気なぼくらの元気なおもちゃ」
ヒッチハイカーを拾った精神分析医ビルだが。
このビルの性格がめちゃめちゃ悪い。後半からの変調は好みではないが予想外。
この作家の短編は、どこでぷつっと途切れてしまうのか全然わからないので
妙にドキドキする。


ボルボ七六0ターボの設計上の欠陥について」
妻の目をかすめて浮気したがるビルだが。
悪夢と冗談とスケベ心で紡がれたナンセンス・コメディ。
それこそ悪いクスリでもなきゃ見られないようなハチャメチャな描写
てんこもりなのに、テンポがコミカルなせいか楽しめてしまった。
榎本俊二エログロナンセンス漫画が好きな人ならオススメ。


「ザ・ノンス・プライズ」
ヤクの売人、ダニー&テンベ再び。
「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」の兄弟のその後だが、立場が
逆転したばかりかハメられ刑務所に送られてしまうダニーは散々だ。
因果が廻ると言えばそれまでだが。


元ジャンキー作家とのことで、
ありありと目の前に浮かぶ幻覚のような描写が巧い。
元々の文学的素養に加え、実体験のリアリティが伴ったら無敵であろう。
ラリってるとしか思えぬ奇怪な描写の数々は、アル中経験のある友成純一
「覚醒者」覚醒者

でアル中者の幻覚が真にリアルだったことを想起させた。