蒼井上鷹「九杯目には早すぎる」
ミステリー短編集。
これがデビュー作だというが、軽快で読みやすい。
「大松鮨の奇妙な客」
その男は、なぜ茶碗蒸しと寿司を混ぜて食ったのか?
ほのぼの日常の謎かと思ったら…。現実にやるには穴があって無理
だろうが(探偵役に余程の<素質>がなければ)コミカルなテンポを楽しんだ。
「においます?」
鼻の良い男。
考えオチのせいか楽しみどころがよくわからず。
「私はこうしてデビューした」
しつこいストーカーに悩まされる作家志望者。
これって「うちは宿でも合宿所でもねえぞ」スレッド
まとめサイトは→http://sasakama.s13.xrea.com/みたいだけれど、
こういう人って実在するんだよねえ。うちは身内がそう。
「清潔で明るい食卓」
元看護師の妻。
これってそういうこと?どう深読みすればいいのかしら。
「タン・バタン!」
他人の着メロが気にかかる。
優柔不断だったのがそもそもの不幸の始まりではないかと。
私だったらこんな状況耐えられんなぁ。死人よりストレスフルな状況が怖い。
「最後のメッセージ」
完全犯罪のはずが。小ネタ。
「見えない線」
バーで出会った薄幸のひと。タイトルが意味深。
「九杯目には早すぎる」
酒の席での一言。短さゆえに印象的。
「キリング・タイム」
最近、課長は誰かに狙われているのだというが…。
2004年『小説推理新人賞』受賞も納得のテンポの良い短編。
ほめちぎってみると
パトリシア・ハイスミスの悪意と悲しみに、
折原一の意外性を加えて十倍希釈した
かのような。
読み終わって、実行はとうてい無理そうなトリック(危なくて犯人の
気が知れない)もあったりするけれど、バカミスすれすれでありながら
読者を徹頭徹尾騙しぬき、クラシック・ミステリへのリスペクトまで
匂わせるとは相当の遊び心がなければ出来まい。
次回作も読んでみたい。