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読書の記録

伊井直行「青猫家族輾転録」

青猫家族輾転録
伊井 直行著
新潮社 (2006.4)
ISBN : 4103771046
価格 : \1,785

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五十一歳の僕は小さいながらも一国一城の主で会社を切り盛りし、
妻とはそこそこ良好な関係を保っているが、高校生になった娘とは
すれ違い…不思議な透明感持つ家族・おっさん・会社小説。


私にとってこの著者は、思い出したように心にズキッとくる小説を
発表するなんだか気になる作家である。
ごくありふれた日常…思春期の娘との間に生まれた距離や、
仕事上の厄介な人間関係などをリアルに描きつつ、その中に
「おじさん」と恋人との村上春樹ライクな(と書くことは、偏見だろうか?)
非日常のラブ・アフェアをさらりと違和感なくなじませるところなど、
尋常ならざる筆力だと思う。


何か派手な事件が起きるでもなく、淡々と日々は続いていくのだが、
そこには喜怒哀楽が若干の諦念とともに濃縮されており、読んでいて
せつなさが高まっていくのであった。
人物が過ごしたはずの時をありありと読者に実感させる時間小説であり、
“おじさん”を慈愛の瞳で見つめたくなってしまう小説なのかもしれない。


巻末の「ノート」によれば、本作は雑誌掲載時とは大幅に改稿され、
『作品の「重心位置」が移動されている』そうなのだ。
掲載時を知らなかったので、どう改稿されているのか気になるところ。