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読書の記録

椎名誠「波切り草」

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主人公の勇は、海辺の町に暮らす少年。
父を亡くし母と兄二人姉一人、弟一人が勇の家族だ。勇の成長物語。


大家族や豊かな自然の描写はどこか懐かしい一昔前を思わせ、
郷愁感じさせる。うまいのが母の弟である「ツグモ叔父」の存在。
近しい血族で、子供達に慈愛を持って様々なことを教えてくれる
大人の存在は貴重だ。子供からは慕われる割に、周囲の大人からは
ろくでもない人間と見なされていたりするのだが。
最近の核家族社会では、ツグモ叔父のような人はめっきり少なくなって
寂しいことである。
この叔父が半分漁師のようなことをしていたこともあり、勇は
自然の恩恵と結びついた暮らしに憧れていく。


必ずしも現実は勇の理想通りにはいかず、彼は寮生活を送ることに
なるのだが、その間、勇のふるさとは大きく変わろうとしていた。
大事なものが変わり失われていくのを悲しむ勇。親しい人との別れも
経験した。しかし、失われるだけではない。変化の中にあって
自分もまた変わり、そして新たなるかけがえのない存在に出会う、
それが人生なのだ。
ラスト勇の一言が、清冽な印象を残し快かった。