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読書の記録

東雅夫・編「猫路地」

猫路地
東 雅夫編 / 加門 七海〔ほか著〕
日本出版社 (2006.5)
ISBN:489048955X
価格 : \1,470

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猫にまつわる架空の熟語をタイトルに、そうそうたるメンバーが集う
書き下ろしアンソロジー


加門七海「猫火花」
急に元気を無くした飼い猫の病とは。
猫好きならではのファンタジックな味わいが好ましい作品。
ラストまでも可愛い。


長島槇子「猫ノ湯」
行方不明の猫を探す女だが、いつしか…。
擬音が目立ち装飾の多い文章に好みが分かれそうだが、悪夢のような
ゆらゆらした世界は異彩を放っていた。


谷山浩子「猫眼鏡」
急にスキマが気になるようになった私。
夢とも現ともつかぬ世界がテンポ良く語られていて快い。
アバウトでいつも自然体な猫と、あくせく無理する人間との対比も良。


秋里光彦「猫書店」
行き着けの書店の、風変わりな来歴とは。
ロマンはありがちかなぁとも思うがそれだけで終わらないところが
心憎いほどツボにはまる。
しかし、毎度新刊書店で少しでもキズやヨレの少ない状態の良い本を
探し回っている身には、この書店うらやましすぎる。ラスト一言にまこと同感。


寮美千子「花喰い猫」
届き続ける、差出人の名の無い手紙の謎とは。
芳香においたつような、視覚嗅覚にうったえかける作品。
私には美しすぎてピンと来ず。


倉阪鬼一郎「猫坂」
ペット可物件を探す。
So what?と思ってしまう淡い色合い。しかしオトナが猫を「ねこさん」と
呼ぶのは相当な愛着のある証なのだろうな。


佐藤弓生「猫寺物語」
澁澤龍彦の法要に向かった先で信じられぬことが…。
猫好きならば誰もが一度は夢見たシチュエーションであり、楽しく面白い。
ヒロインの真っ当にしてどこかとぼけた反応がナイスだ。たいへん可愛らしい。


片桐京介「妙猫」
亡き猫を猫寺で偲ぶ。
みみの条件はやたら難題だと思うのだが、どうか。
本人もそれがわかっているから、あの処遇なのかも。


井辻朱美「魔女猫」
漆黒の使い魔は、魔女のため人間界へ。
幼き日に親しんだ童話のような、レトロで懐かしい世界を楽しんだ。


菊地秀行「猫のサーカス」
猫を虐待するサーカス長は、激しく猫を愛しているのだというが…。
なんともシュールな味わい。


片岡まみこ「失猫症候群」
死んでしまった猫を思いつつ過ぎ行く日常。
幻想小説の多い本書の中では珍しく、リアルな日記調の作品。
猫の版画がたいへん愛らしい。


霜島ケイ「猫波」
三六五日より、一年は一日だけ多いのだという。
寂しげではあるが、ほんのり心あたたまる作品。


吉田知子「猫闇」
猫的女性との共同生活の行く末は。
私には意味不明なところもあったけれど、うらさびしく物悲しい作品。


天沼春樹「猫女房」
民俗研究家の語る恐るべき話とは。
昔話によくある題材を、不安あおるタッチで描き味わい深い。


化野燐「猫魂」
生きにくさを覚える青年の、秘められた過去とは。
描かれなかったその後こそが気になる。


梶尾真治「猫視」
突如怒り出した飼い猫の見つめるものは。
怪談ではありがちな内容だが、ユーモアをひとはけ利かせている
ところがこの著者らしい。


森真沙子「四方猫」
貧しい一家に拾われた子猫は…。
可愛いだけではない猫のダークサイドにふれる作品。苦い味わいだ。


別役実「とりかわりねこ」
孤独な男と猫。
猫の妖しさと、それにもかかわらず猫に魅了されてしまう人間。


皆川博子「蜜猫」
狂える父と暮らす娘だが。
これは私には難解だった。妖しく美しいイメージを味わえばよいのかも。


花輪莞爾「猫鏡」
家禽になっても失われぬ猫の中の自然を説くエッセイ。
創作小説を期待していたので最初こそはなぁんだと思ったが、
読んでみればなるほど納得のいくことが多く楽しかった。


東雅夫「猫たちは、招くよ」
萩原朔太郎猫町」を引用しながら猫文学の世界を格調高く解説。
作中世界の現実であれ、主人公の脳内に招き寄せられたものであれ、
可愛い/怖いの共存が普遍的なテーマとなっているのは不思議だ。