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読書の記録

柳広司「トーキョー・プリズン」

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私立探偵のフェアフィールドは、とある人物の消息を知るために
戦後間もないスガモプリズンを訪れる。そこで出会った戦犯キジマは、
優れた頭脳を持つ男で…。


時代背景がかぶるせいか、「戦場のメリークリスマス」を想起させる
ムードであった。この物語の魅力は鬼才・キジマに尽きる。
 
後半、同著者のミステリー「新世界」オンライン書店ビーケーワン:新世界2003.7
や「吾輩はシャーロック・ホームズである」オンライン書店ビーケーワン:吾輩はシャーロック・ホームズである2005.12
にも見られた付いていき難い幻想シーンが本作にも延々展開し、またか!
と思ったのだが、今回のオチの付き方であればこのシーンの必要性にも
納得がいくというもの。
推理モノの宿命ではあるのだが、前半の魅力的な謎に対して解明…
もしくは探偵によって最もありうべき真相として提示されたことが
見劣りして感じられてしまう。それはあまりに出来過ぎているように
思えるせいもあるし、本作の丁寧に張り巡らされた伏線を追えば、
展開を予想することは難しくない。
だがそれでも、
シンプルな筋立てに戦争がもたらした悲しみをにじませることで、
本書は読後の余韻を深めている。人間の愚かさを描いた意欲作であり、
読者の心に苦いせつなさと、戦争への嫌悪感を遺す作品と言えよう。