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読書の記録

戸梶圭太「宇宙で一番優しい惑星」

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地球が誕生するはるか前のこと、泥の海に囲まれた惑星オルヘゴには、
残忍なインテリ国家クイーグ、優柔不断国家ボボリ、
砂漠の残虐国家ダスーンが在った…。


トカジ節うなるグロ暴力小説ゆえ、読者の好みが分かれそう。
問題でもあり面白くもあるのが、本作に出て来る国家が我々の暮らす
現実とそっくりな性質を宿しているところだ。
以前からSF短編などで実在する国家間の緊張を過激に風刺してみせた
著者であるから、今回もとある三国のデフォルメぶりは並ではない。


ただ、本作がただのおふざけエログロ小説で終わらないのは、
世界に底流として深い諦念があるからだと思う。
他者を押しのけ我先にとエゴを満たそうとする人の醜さ、
殺人が勝手に崇高なものに祀り上げられていくそのどうしようもない過程、
一人の異性を愛しながら、他国の人間を愉しみながら殺してみせる
人間が内包する矛盾。
この小説は、そんな人間の愚かさと哀しさをヴィヴィッドに描き出している。
変に文学的に小難しくならない分、メッセージはストレートに響く。
本作にはモデルとして現実世界が色濃く反映されている。
小説に負けず劣らず滅茶苦茶な世界に、我らは生きているのだ…
それが一番恐ろしい。