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読書の記録

恩田陸「チョコレートコスモス」

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他人を演じる魅力に取り憑かれた少女・佐々木飛鳥は大学の演劇公演で
衝撃のデビューを飾る。一方、実力派女優の東響子は、自分がオーディションに
呼ばれなかった悔しさから、大胆な行動に…。

演劇ものというとあの有名な漫画…
美内すずえガラスの仮面オンライン書店ビーケーワン:ガラスの仮面 第1巻1994.3が頭に浮かぶ。
本書もそれを踏襲するストーリー展開であり、役者のエチュードにおける
発想の柔軟性だとか、無理難題を仕掛けられるオーディションでの機転の
利かせぶりの面白さなどは、恩田オリジナルキャラクターが演じるとはいえ、
かつて「ガラスの仮面」で行われたことの域を出ない。

何より、
演劇サラブレッドの家庭に生まれ、
才能もあるが基本的には努力の人(東響子=姫川亜弓)、
きちんとした演劇教育を受けていないにもかかわらず、
本能の鋭さで素晴らしい演技が出来てしまう天才ヒロイン
(佐々木飛鳥=北島マヤ)という構図が似通っているので、本作を読みつつ、
つい「ガラスの仮面」を想起してしまう。
飛鳥(=マヤ)が、自分の実力を正確に把握出来てなくて、
響子(=亜弓)をすごいと尊敬しているが、
響子(=亜弓)は飛鳥(=マヤ)の恐るべき才能を知覚しているのも共通だ。

あの漫画を既読だと、飛鳥は『×台あ×し』なんだなあとか、
本作のネタに新鮮味を感じられないところがある。
それでも、本作は面白い。エンタメとして良く出来ている。
ガラスの仮面」と設定・題材ともにかぶってはいるが、
小説という表現媒体により、役者各人のキャラクターの内面の掘り下げが
容易になり、役者のプライド、ジェラシー、虚構の世界を構築する悦楽が
より鮮明化されたように感じられる。
役者が何故演劇に一般人には想像もつかぬ情熱でもって
打ち込むのか、その答えの一端がここに描かれているのかもしれない。
異形、異能としての役者が表現されていると思う。

p.s.あの人物の処遇については予想出来てしまったので、
その分自分にはサプライズが無かったかも。