読書日記PNU屋

読書の記録

アヴラム・デイヴィッドスン「どんがらがん」

 
オンライン書店ビーケーワン:どんがらがん2005.10河出書房新社\1,995


「ゴーレム」コントのようなすれ違いの面白さを堪能した
(「ダウンタウンのごっつええ感じ」の出来のよいコントのような
可笑しさがあると感じられた)。ガンバイナーじいさんがかっこよすぎる!!
 
「物は証言できない」アイロニーあふれる一品。
因果応報と言うのは簡単だが、それだけでは言い表せない万感のラストに
打たれる。
 
「さあ、みんなで眠ろう」ヤフー狩り…うう、可哀想に。人間が二種類に
分かれるとすれば、たとえそれが損であろうとも私はハーパーのように
なりたいものだ。
 
「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」世界に隠された途方もない真実とは…!
これは恐ろしい。このネタで長編ホラーにしても成り立ちそうなほどの怖さ。
 
「ラホール駐屯地での出来事」酒場で明かされる過去…元ネタとなった
キプリングの詩は知らなかったが、スリルとサスペンスを楽しんだ。
 
「クィーン・エステル、おうちはどこさ?」起きていることはたいへんに
おぞましいことなのだが、どこかほのぼのとした風味なのはなぜなんだろう、
不思議な味わいのある作品。エステルがクール。
 
「尾をつながれた王族」本書で一番気に入ったのがこの奇怪な作品。
最初昆虫かと思ったのだけど、尾っぽがあるのだから違うね。
地上のとある生物が、人知れずこのような風習を護っていたら…と
想像するのが愉快である。
 
サシェヴラル」さらわれたサシェヴラル。これは、読者にゆだねられた
ラストの解釈によってハッピーエンドにもホラーにもなりうるようだ。
なんとももやもやとした、癖になりそうな読後感の作品。 

「グーバーども」おじいとのすさんだ暮らしが迫真の描写で読者にせまる。
どこか童話らしい空気をまとった作品。
 
「パシャルーニー大尉」おお、男心だなぁ…。感動した!
 
「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」ラストでニヤリ。ここに出てくる
価値基準に大いに同意する私であった。
 
ナポリ」…一体何が!?いいところでじらされる。どきどき。異国情緒たっぷり。
 
「すべての根っこに宿る力」う〜ん、そういうことなのではないかなぁと
思ったらやはりそうだった的なサスペンス。これも一種の異国情緒ってヤツかな。
 
「ナイルの水源」これも本書で1,2を争うくらい私好みな作品。
とにかく奇想の面白さにつきる。
 
「どんがらがん」タイトルの意味するものを知った時、魔法がとける。
 
…以上読んできて、考えオチの多いコントのような味わいのユーモア調の作品と、
哀切極まる悲劇の両方で織られた短編集であると思った。全てを明らかにせず、
余韻を残すオチは好みがやや分かれるかもしれない。